送れないメール
指が、震える。
携帯を握る手の平が汗ばむ。
ディスプレイに浮かぶ文字はたったの一行だけでそれも5文字だ。絵文字は一切無く、付いている記号も読点と疑問符のみ。素っ気ない文字列だが、これが今の佐久間の精一杯だった。
正直、自分自身でも情け無いと思う。
普段部活では散々女王様と言っても過言では無いくらいの鬼畜っ振りを発揮していると言うのに、あの部活特有の勢いが無ければメールを送ることは疎か打つことすらままならないのだ。現在進行形で「送信」のボタンが押せずにいた。
因みに、本文作成に1時間、更に送信ボタンを押しあぐねてそこから30分は経っている。
「……っやめた!」
電源のボタンを連打して起動したメール画面を消す。ディスプレイは普通の待ち受け画面に戻った。携帯を充電器のスタンドにセットするとベッドへ力無く倒れ込む。
「あ〜…」
以前の佐久間なら「無理だ」と言っていただろう。それが今では送信ボタンを押す迄には至らなかったにせよ「やめた」と言えるようになっただけでも大きな一歩だった。
(明日。明日源田に直接言おう)
――“週末、暇?”