ゆめ、うつつ


大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせては、溢れそうになる涙を堪える。
零さないように。零れないように。流さないように。流れないように。

何度も何度も謝った。未だに目を開かないで真っ白なベッドに横たわる彼に対して。
何度も何度も祈った。未だに包帯が取れないで固いベッドで眠っている彼に対して。

(……佐久間)

裏切り者だと罵った鬼道を裏切ったのは自分。ずっと一緒に戦ってきてずっと信じて支えてくれた帝国のみんなを裏切ったのも自分。

ずっと眠ったままの佐久間の手を握る。触れた手の平から温もりが伝わって来て酷く安心した。別に死んだと思っているわけではないが、何日も目を覚まさない佐久間が源田は不安で仕方が無かった。

「佐久間」

声を掛けても返事は当然返って来ない。けれども期待せずには居られ無かった。佐久間は、ちゃんとこうして生きているのだから。

いつもの様に、「うっせー。源田のくせに」と悪態をつく佐久間が脳裏に浮かぶ。その言葉に対してムッとしたり悄げたりしているとニヤリと口端を上げて決まって佐久間は云う。「なんだ、誘ってんのか?」と。その時は周りには必ず帝国のみんなが居て、鬼道が居たときも居なくなった今もそれは行われていた。

みんなで笑ったり、焦ったり、時には叱咤したりして確かに楽しかったのに。影山が居なくなってからの帝国は明るくなった気がして、肩の力が抜けた感じがして、もっと居心地が良くなった。それなのに、そう感じていながらもまた影山の元に戻ってしまった。影山に縋ってしまった。

(本当にバカだ)

佐久間の手を握った右手が震える。本来は源田自身、絶対安静の身ではあるがどうしても佐久間の傍に居たかった。腕に巻かれた包帯類も部屋を出る時に外した。そしてゴミ箱に捨ててきた。
包帯があったら今こうして佐久間の体温を直接感じることは出来ないのだ。

「…佐久間」

不安や罪悪感、そして心配と負の感情がぐちゃぐちゃに織り交ぜられてここの所全く眠れていないせいか、佐久間の体温を感じていたらうとうとと睡魔が襲ってくる。

(こんな時間に寝たら、変な夢を見るのに…)

良く小さい頃に祖母から言われていた。夕方に眠ってしまうと変な(怖い夢に近い)夢を見るからと。昔一度本当にそれを経験してから夕方に眠る事は無かったのだが、不眠が祟ってか襲ってくる睡魔に抗えない。

「さく…ま」

遠退く意識の中、ベッドが鳴いて少し揺れた気がした。



すぅすぅと幼子のような寝息が聞こえる。左手から伝わってくる温もりと熱は思っていた以上に柔らかい感触をしていた。しかしそれも触覚から来る情報とは反比例して視覚からの情報はとても痛々しかった。否、熱を感じていた時点でそれは簡単に想像出来た。

「バカだろ、お前」

嘲笑ったつもりなのに、自分でも違う表情をしていると分かった。酷く、泣きそうな顔だ。右足の激痛を感じながらも上体を起こす。サラサラとした自分の髪とは全く違うふわふわとした質の髪を右手でゆっくり撫でる。

「ごめんな、源田。ごめん」

繋がった手に右手を重ねたかった。けれども出来なかった。

こいつの手がこんな風になってしまったのも俺のせいだ。あいつは分かってた筈なんだ。行っちゃだめだと。だけど俺の為に一緒に行ってくれた。一緒に、居てくれた。俺が目の前すら見えていなかったからだ。

だから、だからと佐久間は自分を責めた。心の中で。泣き出しそうな顔はとうとう泣き顔になってしまった。

(もう、絶対に見誤らない)

溢れた涙を静かに止めるように一度目を瞑った。そしてゆっくりと開けて泣きそうな顔で眠る源田の右手に自分の右手を優しく重ねた。




(佐久間が居なくなって、真っ暗で、でもっ佐久間が目を覚ました夢を見たんだ!そしたら本当に佐久間が居た!)
(分かったから頭の中で整理してから話せよバーカ)






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