させるかっ! [ 6/8 ]



 赤司のひょんな提案で、何故か家にレギュラーが一人ずつ泊まることになってしまった。そして何を血迷ったか初日は自分から青峰を誘ってしまうと言うとんでも無いことを仕出かしてしまう。そんな後先も考えずにその場のノリや雰囲気で物事を決めてしまう自分が憎たらしい。
 けれども男――今は女だけどでも中身は男だからこれでいい――に二言はない。
 夕飯は肉が良いとスーパーでひたすら言っていたので肉巻き野菜にした。一番手軽な冷しゃぶにしようかとも思ったけれど、きっと青峰は肉ばかりで野菜を取らなさそうだから却下したのだ。
 肉巻きなら肉と一緒に野菜も摂取できる。それにちゃんと小鉢にも簡単なサラダを作ったから大丈夫だろう。
 女の体になってからと言うもの、食事の量も減っていたので青峰の豪快な食べっぷりは圧巻だ。
 何よりも「美味い」と言って残さず食べてくれたことが嬉しかった。誰かの為に作る食事がこんなにも幸せな事だとは思わなかったのだ。
 そんな小さな幸せを噛み締めていたのに、彼は矢張りムードブレイカーだと認識したのはお風呂の時である。

「黄瀬ぇ、一緒に入ろうぜ」
「このエロ峰っ! 嫌っスよ!」

 ニヤニヤしながらもそこはかとない本気を彼から感じる。
 これは何としてでも逃げ切らねばならないと分かっていたのに、呆気なく捕まってしまった。

(ああああもうっ!)

 どんなにもがいてもそこは男と女の力の差がまざまざと見せ付けられちょっぴり凹む。男からも逃げられない自分が悔しい。

「変なことしちゃダメっスよ?」
「しねーよ」

 そんな青峰基アホ峰の言葉を信じた俺がバカだった。

「ちょっ、まっ、バッ……やめっ」
「おーおー、柔らけー。マジ本物のおっぱいだわ」
「ふ、あッ……や、やだぁっ」

 背中を流せと命令され、渋々やってあげたのが間違いだった。
 すぐさま反転させられ、俺は今、青峰の足の間で全身泡塗れになりながら胸を揉み拉かれている。

「お……ねが、ァッ、んっ……ぁあっ、ぉ、みねっ……ちぃ」
「煽んな」
「ちがっ、ァっ、ああッ! だめぇっ」
「やっべー止まんねー」
「ヤダヤダぁ……っ、とめ、止めてってばぁ」

 ビクビクと跳ねるように背中が仰け反る。微弱の電流が流れたかのように背中から腰にかけてビリビリと甘い痺れが走った。

「気持ち良いか?」
「やだぁ、も、やめて、ぇ……」
「気持ち良いの?」
「あ、おみ、っハァ、……ぁッ」
「気持ち良い?」
「ん、ぅ……きも、ち……ぃ」

 最早強がっている余裕など無い。すっかり足腰に力が入らなくなってしまった。
 背中越しに感じる青峰の体温は高く、ドキドキしているのが自分だけじゃないと知って余計ドキドキしてしまう。その原因として、触れて分かる青峰の鍛えられた体もあるだろう。

「あっ、あおみねっちぃ」
「ンだよ」
「あの……当たってるっス」

 ナニが、とは敢えて言わないが。
 口にすれば余計に意識してしまって語尾が小さくなる。臀部に感じる硬度を持つソレが何なのか、元々男なのだから分からない筈もない。

「当ててんだよ」
「サイテーっス」
「腰上げろ」
「い、嫌っスよ! 何さも当然のように言ってるんスかっ! ふざけんなっ」

 どうして青峰に処女を捧げなければならないのかさっぱり理解出来ない。そもそも人生で処女喪失を経験するなんて御免だ。
 それに今ここでヤるとなると確実に生挿入であるから、最悪中出しされることも考えられる。青峰ならやりかねない。初潮が無いから恐らく妊娠はしないのだろうがしかし可能性はゼロじゃない。だから何が何でも拒絶しなければならない。

「中出ししたって男に戻りゃ関係ねーだろ?」
「そう言う問題じゃないっスよ」
「あ? お前の所為で勃起したんだろーが」
「俺の所為何スか!?」

 何か解せぬ!
 そう思ったって固より青峰に勝てる筈もない。バスケバカで左脳はアホで脳内エロい事しか無い青峰に何を言ったって無駄なのだ。
 だからと言って俺が折れるのも釈然としないが。それでも処女喪失よりは何倍もマシだ。
 俺はくるりと体の向きを変えて向かい合わせに座った。

「座位か?」
「だからヤりませんってば!」

 そのあからさまに不機嫌な顔するの止めろ。
 そうは思っても口には出さない。きっとこれ以上機嫌を損ねたらぶち込まれ兼ねないからだ。それだけは絶対に勘弁。

「あの……その、だからっ」
「さっさと言わねーと無理矢理ぶち込むぞ」
「ヤダヤダ待って!」

 ほらキターッ!
 それだけは絶対に何が何でも回避だ。
 面と向かって言うのは矢張り恥ずかしくて、俺は青峰の首にぎゅっと抱き付いた。唇を耳に寄せる。そうすれば彼の顔を見ずに済むから。

「本番は流石に無理っスけど、その代わり、む……胸、使って……あげる、っス」

 密着しているから胸部に付いた脂肪の塊は青峰の胸板に押し潰され形を変えている。しかしそうする事により、俺がどれだけ緊張して恥ずかしい思いをしているかダイレクトに伝わる筈だ。

「へぇ……。いーじゃん。やってみろよ。ただし――」

 言葉を途中で切るなり青峰の声が一層近くなった。
 しまった、とそこで後悔しても後の祭だ。
 俺が青峰の耳元に唇を寄せるのならば当然青峰だって俺と似た状態になる。しかも計算外だったのは色欲に塗れた青峰の声は酷く腰に甘い痺れを齎すと言うことだ。

「口も使って満足させろよ?」

――でなきゃ大人しく足広げろよな。

「……ひっ、んんッ」

 一瞬でも流されそうになった自分を殴りたい。



させるかっ!
(骨抜きにしてやるっ!)

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