利用されたのかっ! [ 4/8 ]



 部活が終わると約束通り桃井に連れられて大型ショッピングセンターに来た。俺も偶に利用したりもするけれど、三階に来たのは初めてだ。来る時は大抵メンズ用の店が並ぶ五階だから。

「先ずは、下着を買おう!」
「いきなりっスか!」
「今一番必要なものでしょ?」
「いや、でも……」

 視線を泳がせながら俺の言葉はどんどん濁る。如何せん昨日の途中までは男で、一六年間ずっと男だったのだ。それが突然女になったからと言ってそうホイホイ簡単に女性の下着専門店に行けるわけがない。
 それを何とか伝えたくて、口を頑張って開閉する。出来れば「もう適当に桃っちが選んで来て!」と言ってしまいたいくらいだ。
 いよいよ意を決して桃井に視線を合わせると、先に彼女が口を開いてしまった。

「もー、青峰君先に行っちゃったよ?」
「えっ、嘘、早ってか……ええええっ!?」

 俺は急いで堂々と店の中に入る青峰の腕にしがみついた。

「ちょっ、アンタ何堂々と入ってんスか! バカなんスか? やっぱりアホっスか!」
「はぁ? んだようるっせーなァ」
「いやいやいやホント、何で堂々と入れるんスかマジ有り得な」

 奥に進もうとする青峰をぐいぐいと店の外に出そうと必死に引っ張るけれどびくともしない。と言うか青峰重い。
 同時進行で文句を言ってやればその言葉途中で「いらっしゃいませー」と女性店員に捕まってしまった。今、背中を流れるのは単なる冷や汗でしかない。

「彼氏さんの好みの物をお探しですか?」
「はっ!?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
 いやだっておかしいだろ。彼氏って。誰が彼氏だ。まさか青峰? いやいやいやいやマジで勘弁してよお姉さん!

「黄瀬ちーん。もー、そんな大事な所に彼氏置いて行くなんてマジヒドいしー。俺泣いちゃうよー?」
「面白い冗談だな、敦。真の彼氏である俺の目を盗もうとしても無駄だよ」
「《真》と付ける辺りが胡散臭いのだよ」
「その上、中二クサイですよ赤司君」
「何でみんなで来るんスかっ! アンタらアホっスか!」

 そもそもいつの間に彼らはついて来たのだろう。俺は確か桃井と二人で来たはずなのに。っていうか、

「桃っち、あの人達が一緒に来てること知ってたんスか!?」

 先程の言葉を思い出したのだ。 
――もー、青峰君、先に行っちゃったよ?
 と、彼女は確かに言った。平然と。驚いた様子も無く。

「寧ろ知らなかったきーちゃんに驚きだよー」

 そんな事を言いながら桃井は俺を店員の前に連れて行き、あろうことかサイズの測定をお願いしていた。驚いて桃井を見ても彼女はにっこりと笑うだけだ。
 ひく、と表情が引きつった気がする。
 女の子は大変だなーなんて他人事のように思っていたら胸に当たる違和感に気付いた。

「ひゃっ」
「直ぐに終わりますから」

 慣れた手つきで店員はメジャーを操る。しかもさっさっとトップからアンダー、アンダーからウエストへと移るので本当に宣言通り、直ぐに終わった。
 何かが書き込まれた名刺サイズのカードを手渡される。それを横から桃井がスッと抜きとって内容を確認していた。

「みんな、きーちゃんDだからね。そこのところ宜しく」
「は? へ? いやいやいやいや宜しくって何スか! 何みんなにバラしちゃってんスか! っていうか桃っちが一緒に選んでくれるんじゃないんスか!?」
「どうせだから、みんなの意見も仰ごうかと思って」

 天使を匂わせる可愛らしいにこっとした笑顔を桃井が向けてくるも、今の俺にはどうしても悪魔にしか見えなかった。
 けれどもその後に「テツ君の好きな色が分かるかなって」と照れながらもやや恥ずかしそうに頬を赤く染める桃井は矢張り可愛い。仕方がない。そう言う事ならば協力しないわけにもいかない。
 だから俺は各々散らばって下着を物色する彼らを遠目に見つつ、自分でも探すことにした。


利用されたのかっ!
(恋する乙女の為っス!)


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