マジかっ! [ 3/8 ]



 斯くして不本意ながらも俺は昨日未明から女の子になった。そして、元に戻る日や可能性については不明である。
 そんな不安だらけな日々をこれから送らなければならないのかと思うと溜め息が出るのも仕方がないだろう。
 さっきまでみんなに混じって柔軟をしていた俺は今、桃井の隣でみんながダッシュしている様子を眺めている。

「バスケしたいっス」
「バッシュもウェアもないのにどうやって?」
「うっ……」

 結局今の俺は館内用スリッパを着用している。服は今まで通りのものを着用しているが如何せんズボンが大きすぎる為更に上からベルトをして留めていた。ウエスト部分の紐を引いてもずり落ちるのだから仕方がない。
 男の時の俺って随分太ってたんスね、何て思わぬ事実を知り落ち込んでいたら青峰に「それ、さつきの前では言うなよ」と忠告された。何でだろう。

「ねぇきーちゃん」
「何スか?」
「今、着けてないよね?」
「何を?」
「下着」
「え、昨日桃っちが買ってきてくれたじゃないスか」
「じゃなくてー……」

 気まずそうに言い澱む桃井に俺は首を傾げる。
 昨日、俺が不可思議な性転換を遂げたことを知った桃井は急いでコンビニに行って女性用下着を買ってきてくれたのだ。流石にいつまでもノーパンのまま居る事に忍びないと思ったのだろう。
 だから今日はそれをちゃんと履いている。その旨を伝えれば、桃井は声を潜めて言った。

「パンツじゃなくてブラの方だよ」
「ブ、……へ?」
「流石にブラまでは売ってないし。きーちゃん絶対今シャツ一枚でしょ」
「そっスけど」
「だと思った。仕方ない」

 質問に疑問文紛いのイントネーションで答えれば桃井は手にしていたボードを近くの机に置いた。そして救急箱を漁るなり二枚の絆創膏を取り出す。

「応急処置だよ! さあ、脱いで!」
「へっ?」

 言うが早いか桃井は俺のシャツに手を掛けた。
 イヤイヤイヤ!
 制止の声も虚しくシャツの裾がどんどん上へと捲られていく。今の俺じゃあ抵抗する力も非力に近い。
 マネージャーの仕事をこなす桃井の腕の力は通常の女子より上回っているのだから。

「ちょっ、待っ……助けてっス! 待って!」
「桃井さん、一体何を……?」
「黒子っち!」
「テツ君! あのねっ違うの! これはね、応急処置なのっ!」

 絆創膏をひらひらと見せる。

「黄瀬君、ケガでもしたんですか?」
「してないっス」
「ケガじゃないの。でも、大事な事なの! 分かって、テツ君!」
「はあ、分かりました。必要でしたら協力しますが」
「ほんとっ!? じゃあ、きーちゃんの両腕を押さえてて!」
「分かりました」

 そう言って俺の背後に回ると腕が背中に一纏めにされた。抜け出そうと動いてもびくともしない。何だこれ。
 その隙に桃井がシャツの中に手を突っ込んできた。

「大人しくしててね、きーちゃん」
「ひぁっ、ヤッ! ヤダヤダだめっス! そこっ、だめぇっ」

 不意に触れられた胸の膨らみの中心にビクンと腰が跳ねる。何だこれ。
 右が終われば左に移る。もぞもぞとシャツの胸部が蠢く。桃井の探るような指と芯を掠めた時の感覚に体がおかしくなりそうだった。

「はい、終わったよ」

 シャツの中から手を出した桃井がにっこりと笑った。目に涙を溜めながら俺はそれを恨めしく見る。
 こんなの知らない。触れられた箇所が熱を持つのも、そこから熱が広がるのも、甘い痺れも、俺より力の強い桃井も、俺をいとも簡単に拘束する黒子も、みんな知らない。
 だから、怖かった。
 そう気付いたら後はどうすることも出来なくて、ぼろぼろぽろぽろ涙が零れて行く。

「ご、ごめんねっきーちゃん。でも、今きーちゃんは女の子だからノーブラでそのままってわけにはいかないの」
「うっ、ふぇっ」
「男の子は必要無いけど、女の子には大事なことだよ? 今はブラがないからその絆創膏がブラの代わり」

 良く分からないけれど、俺の為にしてくれたんだってことは伝わった。だから、涙は直ぐに止まったのだけれど――

「今日はお昼までだから、お昼食べに行くついでに買い物しようね!」
「はいっス」

 桃井の笑顔に俺も笑った。
 そうして黒子が背後から気まずそうに声を掛ける。多分、俺も桃井もすっかり忘れていたんだと思う。

「あの、僕は戻っても良いですか? そろそろ休憩も終わりますし」
「あ、うん! ごめんねテツ君、ありがとう!」

 そうして漸く拘束が解かれようとしたのだが。

「あ、待って黒子っち!」

 俺はそれが成される前にストップを掛けた。当然怪訝な表情をされる。

「あ、の……もうちょっとだけ……凭れててもいっスか?」
「どうしてですか?」
「さっきので、腰が……」

――立たないっス。

 理由を白状すると、柔らかな笑みを向けられて思わずドキッとする。まさかそれを見上げる形で見られるなんて。

「僕は構いませんが、理性の限界が来たら責任取ってくださいね」
「へっ?」

 今の顔は反則だと思います。


マジかっ!
(ヤバいマジで力入んね)


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