8月30日 [ 30/31 ]



本来の風邪の症状がどんなものだったか思い出せないんだ。佐久間のことは思い出せるのに。

8月30日

熱が下がらない。上がりはしても下がりはしない。嘘、少しだけ下がった。でも37度台にはならなかった。まあ、喩え平熱になって今日の部活に参加したとしても直ぐに佐久間から帰れと言われるのは目に見えている。

「相変わらず咳もくしゃみもないんだよなあ…」

喉も痛くないんだと告げると、佐久間はう〜んと腕を組んで唸る。部活帰りに来てくれた佐久間だが、朝も調子を見に来てくれた。

起き上がろうとしたけれど当然の如く佐久間に邪魔された。阻止、と言うよりもあれは邪魔としか思えない。何せ上体を起こそうと動いた時、馬乗りして来たのだから。馬乗りならばまだしも両手で胸を鷲掴んできたのだからされた方はたまったもんじゃない。肩を押さえつければいいだろ!と意見すれば、こっちの方が効果は抜群だろ?と言って笑った。殴りたくなる笑顔だ。

それから幾つもの攻防戦を交え佐久間がベッドの縁に腰掛ける形に落ち着いた。

「頭痛は?」
「んー…今はマシになってる」
「なら、問題は熱だな」

そう言いながら頭の下に冷たいものを置く。新しいアイスノンだと気付くのにそう時間は掛からなかった。ふよふよに柔らかくなったものは再び冷凍庫の中に入れられる。

戻って来た佐久間が先程と同じ所に腰掛けた。軋む音と僅かに沈むマットが佐久間の存在を肯定する。佐久間はどんな角度から見ても格好良いんだなあ…なんて考えていたら視線が絡まってしまった。何だか恥ずかしくなって視線を外すと佐久間が笑う。そして優しく頭を撫でてきた。

「俺に見とれてた?」

図星。だけど言えない。何もかも見透かされているようで心臓が活発に動き出す。顔に熱が集中しているのは熱のせい。でも知っている。本当は佐久間のせいだってこと。

「そうじゃない。そうじゃない、けど…違わなくて、だから、その…」

自分でも何を話しているのかさっぱり分からなかった。頭の中が真っ白になって何も考えられない。

「やっぱり佐久間が好きだと思っただけだっ」
「…っ、源田ってさ本当に質悪いよな」
「わ、悪かったな…」
「どれだけ我慢してると思ってんだよ」

ギシ、とベッドが揺れた。その一瞬で佐久間の顔が目の前にあらわれる。俺だけに見せる困ったように笑う嬉しそうな顔だ。唇が触れる。初めは軽く触れるだけただったのに、いつの間にか触れている時間が長くなった。角度を変えて何度も奪われる。

佐久間には言っていないことが一つだけある。頭痛が治まるのは佐久間が側に居てくれる時だということ。でも、それを言ったら絶対に佐久間は家に帰らないと思うから。本音を言えば一緒に居て欲しい。けれどもそんな俺の我が儘を言うわけにはいかなかった。佐久間にこれ以上は甘えられない。

しかしそんな俺の気持ちを知っているのか知らないのか。思い出したように佐久間が口を開いた。その距離僅か1p。

「あ、俺今日は此処に泊まるから」
「は?」
「だーかーら、泊まるって」
「え、それ…て、ンッ」

続きを楽しむ、と言うよりは俺の言葉を遮る為のキスだった。

「お前は黙って寝てりゃいいんだよ」
「…仕方がないな」

きっと俺が凄く喜んでいることは佐久間に筒抜けだろう。その証拠に、俺を見る目が普段と違って温度を感じる。佐久間にはこれからもずっと適いそうもない。それは佐久間の方も同じかも知れないが。

「泊まるのは勝手だがベッドで寝ろよ?」
「は?何で…」
「一緒に寝たいから」

1割くらいはそんな気持ちも無いわけじゃない。実際は床に寝られるのを防止するためだ。風邪じゃないから移ることもないだろう。また、佐久間を近くに感じれば感じる程頭痛が治まっていくのだ。

「…嫌?」
「んなわけねーじゃん」

分かってるくせに訊くな、と耳元で囁かれた。佐久間にも俺が耳元弱いって分かってるくせにするなと言ってやりたい。それでも出来ないのは体の奥が甘い痺れに酔っているから。

夕飯くらいは作らせてくれるかな。なんて痺れていく感覚に溺れながら、俺は迫り来る近い未来を今か今かと胸を膨らましていた。

ギシ、と鳴るのはベッドなのか時間の音なのか。けれども今はそんなこと、どうでも良かった。



*****
何か甘くなりすぎた気がします。どうしよう。そして後1日。大丈夫なんだろうか。

201205.加筆修正



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