8月29日 [ 29/31 ]



こなきじじいって実在しますか?

8月29日

突然訪れた体調不良の原因はこれなんだろうか。今の俺は体温計と睨めっこ状態にあった。

「さんじゅう…はちど、くぶ」

道理で頭痛が酷いわけだと自分を納得させる。熱を持った溜め息を吐きながら体温計をケースに入れた。枕元に奥と次は携帯を握る。

カシカシカシ

元々早打ちでは無いにせよ(佐久間や成神は速過ぎるけれど)通常よりボタンを押す速度は各段に遅くなっている。熱で頭がぼーっとするよりも痛みが断然強かった。途中で何を打っているのかも分からなくなる。電話の方が早いのだが時間が時間なだけに掛けるのに躊躇していた。太陽が昇っているにせよ、朝の4時台だ。

しかしとうとうそうも言ってられなくなった。頭痛の波が押し寄せて来たのだ。それも津波級の。後ろ髪を引かれる思いでメール機能を消し、待ち受け画面に戻した。痛みに思わず目を瞑る。それでも慣れた手つきで090から始まる数字を打ち込んだ。何度も掛けたり掛かったりしている内に覚えた数字の羅列は佐久間の携帯だけだ。

数回のコール音の後、ぷつりと途切れる。暫し無音の状態が続いた。それによりコールセンターに繋がったわけでも、切られたわけでもないことを理解する。此方から話そうとした時、電話の向こうから掠れた声が聞こえた。

『…はい』
「佐久間?すまない。起こした…よな?」
『…どした?』

寝起きの佐久間の声はとても低い。普段は(男の時の)俺より高いので知った時は部員全員が驚いた。

「熱…出ちゃって」
『は?何お前、大丈夫か?』
「一日安静にしてれば明日には治ってるだろ」
『鼻声とかじゃねーんだな』
「咳やくしゃみとかは無いんだ。酷く頭痛がするだけ」

実際口に出して思った。この熱は風邪なのだろうかと。もしかしたら最近の体調不良は熱を出す前兆だったのではなく、この熱も体調不良の延長線なのではないかと。

『源田?』
「すまない。ちょっとぼーっとしてた」
『本当に大丈夫か?』

目を閉じているからだろうか。佐久間の声が頭の奥で聞こえているような感じがする。動悸が激しくなりつつあるのは体調不良のせいだ。きっと。

人は体調不良の時、心細さを感じる時があるらしい。今まではそう言う経験をしたことが無かった。寧ろ一人にしてくれていた方が早く治るとさえ思っていた。けれども今日は違う。佐久間の声を聞いているからなのか。佐久間に会いたいと強く思う自分がいる。

「なあ、さくま」
『ん?』
「…い、たい」
『大丈夫か?頭痛薬飲んだのか?』
「あ、や、え?…ああ、そういうことか」
『お前何言ってんの』

心配の声から呆れた声へと変わる。脳裏に声のトーンと共に変わる佐久間の顔が浮かんだ。俺の気持ちはどうやら正確に届かなかったらしい。一文字入るか入らないかで意味が異なってしまうのだから言葉の難しさを改めて実感した。

「痛いのは痛いんだがそうじゃないんだ」
『何なんだよお前』
「佐久間に」

今度はちゃんと伝わるように。佐久間の元に届くように。ゆっくりと、はっきりと、一音一音を大切に口にする。電話の向こう側は無言になってしまった。きちんと伝わったのだろうかと不安になる。だから、もう一度口にしてみた。

「凄く会いたいんだ。佐久間に」
『源…田。なんだよ。寂しいのか?』
「寂しい」

石像を乗せられたかのように重たい体を起こしてベッドに座り直す。キシ、と小さくベッドが鳴いた。熱がある時は素直に甘えられるんだな。なんて考えながら熱い息を吐く。体内に溜まってしまった熱を逃がすように。分かっていたことではあるけれどもなかなか上手く行かない。

『誘ってんのか?』
「部屋に招待すると言う意味でなら」
『熱って、沢山汗かいたら治るらしいぜ』
「じゃあ部活に参加しようかな」
『じゃあ部活休みにしようかな』
「佐久間」
『ハハッ、冗談だって』

じわじわと背中の辺りが汗ばんできた。もぞもぞ脱いでいたら『テルエッチでも始めんのか?』と真面目な声で訊いてきた。だからたった二文字で相手を罵ることが出来る言葉を送ってやった。衣擦れの音が聞こえたのだろう。しかしそれだけでよくもそこまで想像(この場合は妄想になるのだろうか?)出来るものだ。

『今から行ってやるから待ってろ』
「え?」
『じゃあ後でな』

一方的に掛けた電話を一方的に切られてしまった。今から来るのか?本当に?バスは動いていただろうか?裸でベッドに座ったままうんうん唸る。バスが無くても佐久間なら走って来そうな気は充分にした。

「佐久間、来てくれるのか」

これから起こる事実を口にすれば何だか全身の力が抜けてしまった。苦労して痛みと格闘しながら起き上がった上体は呆気なく再びベッドに沈む。鍵は開けていた方がいいのかな。なんて考えはしたものの、あの佐久間のことだ。管理室から拝借してくるに違いない。痛みを忘れるくらい、今の俺の頭の中には佐久間がいっぱい居た。

目を閉じたが最後。意識は遠退き夢の世界へと俺は旅立っていった。

この後、佐久間に熱があるくせに裸で寝るなとこっぴどく怒られてしまった。頭痛が一層酷くなったのは、俺の不注意のせいなのか佐久間が怒鳴ったせいか、はたまた別に理由があるのか。こればかりは分からない。



*****
私も結末がわかりません。どうしよう。どう、しよう、か。←
何か段々手抜きになっているような気がするんだけど。気のせいかな?(自分のことなのに!)

201205.加筆修正



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