8月23日 [ 23/31 ]



ああ、だから必要だったのか。

8月23日

合宿最終日の今日は午前中で練習は終わってしまった。マネージャー達の計らいで午後からは海で遊ぶことになっていたのだ。

それを知ったのは朝食の時。確かに合宿前に配られたプリントの持参する物の欄に水着と書いてあった。まさか本当に遊ぶ為に使われるとは思いもしない。浜辺での練習だから服が濡れてもいいようにと言う配慮からかと思っていた。しかし実際は着用することなく今日まで過ごしてきたのだ。

マネージャーからの報告で真っ先に喜んだのは一年生と綱海だった。相当海が好き何だなと思うと何だか微笑ましかった。俺よりも年上なのにこの時ばかりは一年生達と変わらない気がした。本人には絶対に言えないけど。

真夏の太陽に照らされて光る海は絶えず波を打っている。砂浜も輝き、眩しさに思わず目を細めた。一番最初に飛び込んだのは此処に来る時からバスの中で騒いでいた一年生。それに続くのは綱海かと思ったが、俺の予想は大きく外れた。オレンジ色のヘアバンドがよく目立つ彼――円堂が飛び込んで行ったのだ。

「成神、洞面っ!円堂達も!ちゃんと入る前に準備運動はしたのか?」

ざぶざぶと深い所に向かって進んで行く小さな背中に向かって叫ぶ。遠くの方から「あ!」と短い声がした。すると今度は小さかった彼らがどんどん大きくなり、等身大へと成長を遂げる。

「待ちきれなくて…」
「面目ないでヤンス」
「すみませんっス…」
「僕も…つい」
「ごめんよ」
「悪い悪い。源田、サンキューな!」

しょぼん、と肩を落とす洞面の頭を撫でてやる。「ちゃんと戻って来たのは偉いぞ」と誉めてやればその表情はみるみる元気になった。お前達も、と付け加えると栗松や壁山、立向居に木暮も罰が悪そうではあったが笑っていた。円堂は準備運動を張り切って始めている。本当に何もかも一生懸命にやる奴だ。

「源田せんぱぁい」
「成神…」

今まで黙っていた成神が猫なで声で俺に抱きついてきた。

「どうした?」

小さい子どもを慰めるように頭を撫でれば腰に回された腕により一層力がこもる。それから直ぐに胸に埋めていた顔を少しだけ上げたのだ。

「どーして先輩はTシャツ着てるんですかあ!」

グン、と背中の部分が2、3回強く引っ張られる。どうやら俺が水着の上から黄色いシャツを着ていることが不満のようだ。

「あ、いや…他意は無いが」
「じゃあっ」

脱いで下さいよ。

甘えるような声から一変してオトコになる。その突然のスイッチの切り替わりに心臓が跳ね上がった。真剣な目つきは一瞬で崩れ、また無邪気な笑顔に戻る。頭を撫でようと腕を上げた。刹那、俺の手の平は成神の髪の毛を掠る。其処にあった筈の紫色の頭が無い。代わりに褐色肌の右足が現た。

「え、あ…れ?」
「おい」
「…佐久間」

成神は…と思って佐久間の足から視線を下に向ける。さっきまで俺の胸に埋めていた顔は砂浜に埋まっていた。

「な、成神っ?!」
「天誅だ。天罰だ。ざまあみろ」

そう言うや否や上がっていた足を下ろす。佐久間の足の裏は紫色の塊を踏みつけていた。

「佐久間っ!」
「何」
「足を退けろ」
「はいはい」

そう言ってもう一度成神の頭を踏みつける。少し長かった気もしたが、声を掛ける前に足を退けたのでタイミングを失ってしまった。

俯せになる成神の横に移動する。右肩を掴んで手前に動かすとごろりと仰向けになった。気を失っているのか伸びているのか成神は目を閉じたまま動かない。呼吸はしているから大丈夫なのだろうが。

「やっぱ俺の踵落とし最強だな」
「お前、サッカー辞めて空手部にでも転部したらどうだ?」

呆れながら言えば耳元で「本気で言ってんの?」何て囁くものだから何も言えなかった。

反則だ。そんなことを言ってもきっと佐久間は笑うだけだろう。俺が慣れればいいだけの話だ。溜め息を吐きながら視線を佐久間の居る方とは反対側に移した。そこであるものが俺の視界に映る。

「黄色い…布?成神、いつからこんなものを…」
「あ。源田」

けれども見覚えのあるそれを訝しげに見ていたら佐久間が俺を呼んだ。何かに気付いたのか、あいつは俺の背中をじっと見つめていた。

「どうした?佐久ひぁああっ!!」

突如感じた腰の痺れ。背中を下から上に向かって指一本で弄る佐久間を睨み付ける。

「これはまた中学生らしからぬ水着で」
「は?え?」
「っていうか、お前のサイズだと年相応の水着が無いのか」
「え、な、何?」

振り向こうとしたらふいに後ろから抱き締められた。ぴったりと密着した体は腰や背中の辺りから直に佐久間の熱を感じる。そこで漸く成神の手中にある布の正体を知った。

「破けたのか…」
「ナニが?」
「シャツが!」

見れば分かることをいちいち意味深に言う必要があるのだろうか。これじゃあシャツを着ていても意味が無い。しかし脱ごうと思ってもこうも密着されては出来ない。

佐久間の名前を呼ぶ前に背中に生暖かいものが触れる。ぴくりと体が反応する。俺の背後で佐久間が笑った気がした。

「脱ぐのか?」
「ちょっ…佐久間、くすぐったい」
「ふうん。脱ぐんだ。へぇ」
「な、に…」

唇をくっつけたまま喋るものだから直接息が背中に掛かる。その度に俺は身じろいだ。段々体の内側が熱を持ち始めたのが分かる。

「佐久間っ佐久間ってば!」
「何?」
「ちょっと…色々と、危ないから」

そろそろ離れてくれないか?と続くはずだった言葉は喉の奥で止まざるを得なかった。体がぐらりと傾き背中が砂浜に触れた時、唇にも佐久間のそれが触れた。キスされたと気付いたのは狭い範囲にしか聞こえないリップ音がしたからだ。

「脱げよ」
「へっ?!」
「破けたシャツなんて着る意味が無いだろ」
「そ、そう…だなっ」

徐々に速度を上げる鼓動が体中に響く。青空をバックにした佐久間を見るのはこれで何回目だろう。火照った体を早く何とかしたかった。視線を横にずらせば日差しを浴びて反射する夏の海がある。

「泳ごう!佐久間っ!」

起き上がってシャツを脱ぐ。脱いだ時に胸も一緒に揺れたけれど気にする余裕など今の俺にはない。そのくせシャツを畳み未だ気絶している成神の頭の下に敷いてやるくらいの余裕はあった。

早く。早く。

早く水に入ってこの火照りを鎮めたい。それなのに佐久間が手を取って走り出すから熱は溜まる一方だった。


夜中は急遽勉強会になって全員が夜更かしをする羽目になったのは、この時はまだ誰も知らない。


*****
源田の水着に関しての描写が無いのは、色や形は皆さんの想像にお任せ!(と言う名の丸投げ)したかったのです。私的には下乳が見えてるような三角ビキニかなあって(笑)そして紐パン!色は黒でも茶でも白でも!!(色を決められなかったから丸投げしたと言っても過言ではなry)

201205.加筆修正



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