8月22日 [ 22/31 ]



屋外でやるサッカーなんて新鮮で、砂の上を裸足で走り回るのもきついけれど楽しい。

8月22日

疲れからか夜は快眠で、朝はスッキリ目覚めることが出来た。合宿二日目。真夏の日差しを浴びながらの練習は体力を素早く奪っていく。どんなに水分補給をしてもしたりないくらいだ。それ程汗になるのは早かった。

「リフティング100!よーい…」

クリップボードを片手に木野がホイッスルで合図を出す。同時に全員が一斉に砂浜の上でリフティングを始めた。誰か一人でも落としたら最初からやり直す。今ので何回目だろう。恐らく二桁はいっている。初めの方は皆足場の悪さに苦戦していた。しかし流石レギュラーなだけあって5回目くらいには大半が続けることが出来た。ただ、まだ足腰が十分に鍛えられていない一年生にとっては難関のようだ。

全員がやっと出来た頃には足がパンパンだった。砂浜での運動は随分と筋肉を使うらしい。

「も、もう無理っス…」
「キツいよ〜痛いよ〜動けないよ〜」
「オイラも限界でヤンス」

壁山が砂浜に寝転がるとそれに続くように木暮や栗松も倒れ込む。成神は後ろ手に座り込んでいた。背中合わせになるように成神の後ろには立向居の影がちらりと見える。洞面は何処だろう、と視線を彷徨わせれば壁山の腹部に乗っていた。こうして見ると、如何に洞面が小さいかが分かる。(逆も言えるが)

「なんだなんだお前ら!練習は始まったばかりだぞっ」
「キャプテ〜ン…オイラ達、足が、もう…」
「1年は50回にしただろ?豪炎寺や鬼道はその倍やったのにああして立ってるんだぞ」

へばっている一年に円堂が声を掛ける。こう言う姿を見掛けるとキャプテンらしさが見えてくる。普段から熱い奴だがどちらかと言えばサッカー少年のイメージが強いから新鮮だ。

じゃあ俺は成神達に声でも掛けるか、と思っていたのだが先着が居たようだ。彼らの方を振り向いたら佐久間が仁王立ちで其処に居た。

「おい、お前ら。まさかあれくらいでへばったんじゃ無いだろうな」
「…まさか」
「そうだよな。帝国学園の奴がこれくらいでへばるなんてあるまじき事だよな?」

わざと大きい声で言っているのだろう。みんなに聞こえるように。離れた所に居る洞面にも届くように。

「だから、へばってませんってば!」

まんまと挑発に乗った成神は睨み付けるように佐久間を見る。どうやら成神の瞳に満足したらしい。ほんの一瞬だけ柔らかく笑った。成神はそれに気付いただろうか。否、あの様子だと気付いていないようだ。次のターゲットは立向居のようで、今度は彼に視線を遣る。

「おい、立向居。お前そんなんでGKが務まると思ってんのか?」
「それは…」
「お前が尊敬してる円堂はお前の倍やってんだ」
「…はい」
「俺の源田だってお前らの倍やってんだよ。女でも出来るのにお前らはその半分が限界か」
「…っそんなこと無いです!」

小馬鹿にしたような上からの物言い。凄く佐久間らしいと思った。相手を奮起させる手段として佐久間は絶対に慰めや誉めるような言葉は言わない。偉そうで威圧的な態度を取る。だから誤解されやすい部分もあるのだが。

そんな佐久間の言葉に見事刺激された二人は勢いが戻ったのか瞳がしっかりと定まっていた。そしてまた無邪気な笑顔に戻ると円堂達の居る所まで走って行ってしまった。

「ったく、手間のかかるガキだな」
「佐久間も相変わらず不器用だな」

一仕事終えたように、ふう、と息を吐く佐久間に苦笑する。機嫌を損ねてしまっただろうかと一瞬考えたがそうでも無さそうだ。

「ふざけんな。俺は素直に思ったことを口に出しただけだ」
「“俺の”は余計かな」
「ったく。不器用なのはどっちだ」

集合のホイッスルが波の音に混ざって浜辺に響く。佐久間が歩き出す際にさり気なくお尻を撫でて来たのは矢張り怒るべきだったのだろう。けれども先程の佐久間の言葉が頭から離れなくてそんな事を考える余裕なんて無かった。

「…俺の」

ポツリと呟いた言葉は波に流されたが、それでも耳の奥には残っている。「俺の」と言われただけなのに体の奥が熱くなった。きっとこれは夏のせいだ。自分を無理矢理納得させて佐久間の後を追う。

誰かのせいにすることはとても簡単で、楽だ。けれども誤魔化そうとして誰かのせいにするのは簡単なことだけれど意外と難しい。

そこの小さな石ころと共に、俺の熱も攫っていってはくれないだろうか。そんな思いで寄せては返す波を見つめていた。



*****
ははは。(乾笑)取り敢えず、佐久間に「俺の源田」って言わせたかっただけなんです。すみません。

201205.加筆修正



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