8月20日 [ 20/31 ]



普段の練習が屋内だから、屋外での練習はなかなか堪える。


8月20日


今日から3泊4日の雷門中と合同の合宿が始まった。合宿所は雷門中マネージャーの雷門夏未が手配してくれたらしい。(聞いた話では避暑地にある別荘だとか)

移動は雷門が所持しているバスよりも帝国が所持しているバスの方が大きい為其方を使用することになった。久し振りに鬼道と共に行動出来るのが嬉しいのか、佐久間のテンションは上がりっ放しだ。だから雷門の奴らを迎えに行く時、俺は佐久間に「鬼道の隣に座ったらどうだ」と提案したのだが何故か渋っていた。結局、今現在俺の後ろの席で佐久間は鬼道の隣に座っているのだが。

「帝国のバスってすっげーな!ソファーに座ってるみたいだ!なっ風丸!」
「円堂、あまりはしゃぐな!」

このバスがこんなに賑やかになる日が来る何て思いもしなかった。最近では滅多に使わなくなったバス。以前使用していた時は影山が総帥として帝国を牛耳っていた時だ。たから破壊行為の為の移動手段としての使用のみ。それ故に車内には重たい空気しか流れていなかった。

それが今はどうだろう。雷門の皆が乗っているだけでこうも空気が違うのかと驚いた。

「もう直ぐで着くからそろそろ降りる準備してね」

前方の座席から木野が少し大きめの声を出す。騒がしい車内で情報を伝わるようにするにはそれくらいしか方法は無いのだ。別荘提供者の雷門は、先に行っているらしくこのバスには乗っていなかった。

「うぉぉおっ!ちょっ、洞面!海だよっ海!海だあああ!」
「凄いね〜!成神は泳ぐ時もヘッドホン付けてるの?」
「泳ぐでヤンス!」
「スイカ割りも出来るっスか?」

窓にべったり張り付く帝国一年と雷門一年のテンションが一気に上がる。しかしそれもマネージャー達が「遊びに来たんじゃないのよ」と一喝したことでテンションは一気に下降した。

「木暮、もうそろそろ着くぞ?」

俺の膝の上で眠っている小さな彼を軽く揺さぶる。小さく反応を示すと胸の間から重たそうに瞼を持ち上げる木暮が顔を覗かせた。

「えっ木暮君、源田さんの所に居たんですか?!」
「ああ、そうだが」
「私、てっきり帝国の皆さんと一緒だから大人しくしてるものだと…」

まるで大人しい木暮は珍しい、とでも言うように音無の驚いた顔がひょっこり現れた。座席に膝立ちでもしているのだろう。そう出なければ背もたれの上から顔が出る筈がない。

「そんなに源田さんのおっぱいが気持ち良かったのかしら…」
「何か言ったか?」
「い、いえっ!何でも無いですっはは…。と、取り敢えず、皆さん準備してて下さいね!」

誤魔化すようにさっさと言葉を切り上げ、そそくさと頭を引っ込めた。

「なあ豪炎寺、木暮はそんなに普段からやんちゃなのか?」
「ああ、そうだな」

俺の隣に座っている豪炎寺は頬杖をついて窓の外を見ていたが、俺が話し掛ければきちんと此方を向いてくれる。自分でも珍しい組み合わせだなと思っていた。でもそのお陰で沢山話す事が出来たし、情報交換も出来たのだ。

「木暮、もう着くぞ?そろそろ起きろ」

先程起こしたのだが再び夢の国へと旅立ってしまったらしい。今度は少し強めに揺さぶる。「んー」と抵抗なのか返事なのかどちらともつかない言葉を漏らしながら胸に顔を押し付けた。まるで、枕にするそれと同じように。

「すっかりいい枕になったらしいな」
「はは、それは誉め言葉として受け取っておくよ」

雷門の奴らはどうしてこうも個性派揃いなんだろう。それをうまくまとめているのはキャプテンである円堂で、そんな円堂をさり気なく支えているのが鬼道と豪炎寺なのだろう。

「雷門には鬼道も豪炎寺も必要なんだよな」
「寂しいか?」
「少しはな。でも、それでいいと思ってる」

俺達の後ろの座席では佐久間と鬼道の会話が続いている。昔話に花を咲かせたり、今の自分のことやチームメイトのことを話したり、内容は様々だ。詳しいことは聞こえ無いが、聞こえてきた部分的な単語で推測する。

「妹と一緒に居られるようになったんだから」
「そうだな。しかし、それだけか?」
「…佐久間は鬼道にべったりだから。嫉妬せずに居られる自信がない」
「なるほど」

ふ、と小さく笑った豪炎寺の顔は矢張り整っていて、窓の外でキラキラ光る海がそれを一層際立たせていた。

「あ、き、鬼道とか佐久間には言うなよ?絶対笑われるから!」
「ああ」

まさか後ろの方で佐久間と鬼道が聞いていただなんてこの時の俺は考えもしなかった。それくらい恥ずかしさでいっぱいいっぱいだったんだろう。豪炎寺は口数が少ない分、聞き上手だと思う。逆に鬼道は話し上手だ。

そうこう話している間にバスが停止、バック、停車の動きをしていた。エンジンの音が完全に途絶えた時、ああ、着いたのかなんて呑気に考えていたが未だに眠っている木暮を本格的に起こさなければならない。

「木暮、着いたぞ。木暮っ!」

今度は揺さぶるのではなく、ぺちぺち頬を指先で叩く。全員がぞろぞろと降りているさなか、俺だけはその場から未だ動けずにいた。通路側に座っている俺が動かないことには隣の豪炎寺も動けないのだが。

「ああああああああああっ!ちょっと何してんのさ!源田先輩のおっぱいを枕にするとか羨ましい!」
「成神、後ろがつっかえてる」
「木暮が熟睡でヤンス」
「どうりで今回はイタズラがなかったんスね」

海を見てはしゃいでいた一年が今度は俺達を見て騒ぎ出す。栗松の言う通り、木暮はすっかり熟睡してしまっていた。正直胸がくすぐったい。

成神が喚きながら後ろに続いていた洞面、栗松、壁山の三人に背中を押されて強制下車。その後も綱海や立向居、染岡に吹雪それから咲山や辺見と俺より後方に座っていた奴らが横を通り過ぎる。胸の中の木暮を見ながら。

「まるで親子だな!」

俺の前の座席から顔を出した円堂を隣に座っていた風丸が焦った様子で宥める。何を焦っていたのかと思えば、そんな円堂の言葉に過剰に反応した人物を危惧してのことだった。

「ふっざけんな円堂!俺以外源田の夫が務まる奴何かどこ探しても居ねーよ!大体俺と源田の子供はもっと可愛い!」
「バカかお前は!」

何の恥ずかしげの欠片も見せない佐久間に俺の方が恥ずかしくなった。真剣に主張するのだから余計に、だ。

「お前もいつまで源田にぱふぱふしてんだよ!」
「うわあっ」
「いだだだだっ痛い痛い痛いぃぃいっ」

座席から身を乗り出した佐久間の腕が迷い無く俺の胸の間に入り、其処にあった小さな青い頭を鷲掴んだ。佐久間の大胆な行動に雷門勢は唖然とする。

「佐久間っ!此処、他の生徒も居るからっ少しは自重しろっ!」
「自重したら直ぐにお前食べられるぞ!」
「わけが分からないっ!良いからこの手を退けろ!木暮も起きたみたいだしっ!」

狭い車内で暴れていたから、恐らく先に降りた人から見ればバスが独りでに揺れているように見えただろう。

「い、痛いよ…」
「木暮が早く降りないと源田も俺も降りられない」
「わっ、もう着いたんだ!」

わざとらしい言い方は照れ隠しなのかバタバタと慌てて降りていった木暮の顔は些か赤味がかっていたように見えた。

さて、と小さく漏らすと豪炎寺は座席から立ち上がり「俺達も降りようか」と降車を促す。それに同意の言葉を漏らしてバスを後にした。


今日から始まった合宿が大人しく練習だけで済むとは思い難かった。これは、何だろう。女の勘、というやつだろうか。いずれにせよ気が重さを感じるのは確かだ。



*****
合宿開始!合宿を何泊にするか凄く迷いました。
源田の胸枕は私の願望です。

201205.加筆修正



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