8月19日 [ 19/31 ]



芝の上の心地良さは帝国のみんなと一緒に居る時の居心地良さとどこか似ている気がした。

8月19日

今日は凄くいい天気で、夏の風が太陽の匂いを運んできたかのような気持ち良い気候だった。だからスタジアムの屋根を開放しないか?と提案したら、みんなも偶にはいいかと言っててくれたので佐久間が辺見に頼んで(命令して)開閉スイッチを押しに行かせた。

久しぶりに取り込んだ自然の光は人工的な光よりも眩しくて、暖かかった。日差しは強いが優しい。芝がキラキラといつもと違う輝きを見せた。

「今日はかなり汗掻きそうだな」
「だったら先ずはそのマスク外せよ」

天井から顔を見せた青空を仰ぐ咲山の目は細められている。そんな咲山にいつものように腕組みで立ちどこか上から人を見るような態度の佐久間が口を挟んだ。そんな佐久間の言葉には一切返事をせず、咲山はボール籠へと歩き出す。

「ま、いっぱい汗掻きゃその分シャワーも気持ち良いだろうな」
「取り敢えずその暑苦しい顔を何とかしたらどうですか。おでこだけが涼しそうですね」
「てめぇ成神ちょっと面貸せコノヤロウ」
「もう部活始まりますよー辺見センパーイ」

仲睦まじいとはこういうことなのかな、なんて一人思いながら成神と辺見の遣り取りを見ていたら、ぐらりと体が傾いた。

一体何事だと思ったら背中を始点に内側から胸を突き上げられるような痛みが波紋のように体内に広がる。(序でに揺れる胸が痛い)ああ、倒れたんだと気付いた時には影が落ちていた。青空を背中に背負った佐久間の顔は影り褐色の肌が濃くなる。顔の横に佐久間の両腕があるのを認識してやっと「押し倒された」のだと分かった。

「佐久間……?」

部活始めるんだろう?と続く筈だった言葉は開いた唇から漏れることは無かった。と言うのも、俺が言うより早く佐久間の声が聞こえたからだ。

「余所見してんなよ」

言葉が鼓膜を刺激したのとほぼ同時に胸にも刺激がくる。さっきまで俺の顔の横についていた左腕が無くなっていた。

「んっ、佐、久間……」
「覚悟しとけっつったよな?」

ここ最近では蒸れるからと言う理由でさらしを巻いていない。勿論今日も巻いていないので衣服の上から佐久間の指が感覚神経を刺激した。

喉の奥から出そうになるのを歯を食いしばって耐える。誤魔化すように顔を背けたら太陽の日差しを受けた芝の匂いが鼻腔を擽った。

(あ…)

「……気持ちいい…」
「……は?」

ポロリと口に出た言葉が佐久間の動きを止める。俺からは良く見えないが取り敢えず視界に入っている範囲の部員の動きも止まっているようだった。

「え、なに。誘ってんの?」
「何のことだ?」

通常よりも一回り大きくなった目をしているが表情は至極真面目だ。その点、聞き返した俺の目も一回り大きくなってはいるが佐久間とは全く別物である。数回瞬きしても目の前の顔が崩れることは無かった。

「良く分からないが、佐久間もやってみたらどうだ?気持ち良いぞ」

ふわっと笑顔を作ると、佐久間の腕を引っ張って俺の横に寝転ばせる。その際、驚いたのか小さく「うわっ」と声を漏らした。

佐久間が居なくなり影を作るものも無くなって目の前は真っ青な空が俺の視界を支配する。急に眩しくなったので思わず目を瞑ってしまったが目を閉じたことによって他の感覚が研ぎ澄まされたような気がした。太陽の匂い、芝の匂い、風の匂い、夏の匂い、それから――

「この匂いが一番好きだ」

ごろんと寝返りを打ったら鼻を掠めた微かな匂い。それは、安心する匂い。俺が好きな匂い。俺の好きな人の、匂い。

(今風が吹けばいいのに)

そうすれば、きっとこの匂いが風に乗って俺の元へと届いてもっと強くなるのに……。だけど現実そううまく行くものではなくて。自然の力なんて操れるわけもなくて。だから、だろう。だから、だと思う。

鼻をもっと近付けたらもっと嗅げるんじゃないか。そう思ったら体が勝手に動いた。

青い空に包まれた夏の光の下でキラキラ輝く緑を感じながら、俺は佐久間を吸い込んだ。



*****
源田は人前でイチャイチャするのは嫌がるくせにナチュラルにする子だと思います。
全てが無自覚だからされた方は堪らないですよね!(二重の意味で!←)

201205.加筆修正



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