8月16日 [ 16/31 ]



8月16日

夏休みも残り半月となってしまい、今日から折り返し地点だと言える。そう考えると夏休みは短いのかも知れない。

なあ、佐久間。同意を求めようとしてロッカーの扉を閉めながら振り返ると、ベンチに腰を掛け右足を数字の4のように左膝の上に乗せた佐久間の姿があった。その足の上にはテキスト、そして右手に持ったシャープペンシルを顎でカチカチ鳴らしながら芯を必要以上に出している。一冊のテキストと睨めっこする佐久間は何だか新鮮だった。

「佐久間?」
「ん?ああ、何?」
「行かないのか?」
「んー?行くに決まってんじゃん」

とか言いつつも佐久間の視線は依然としてテキストと睨めっこを続ける。後半月もあるのだから、最終日に纏めてやるタイプじゃ無い限り終わらせる事は可能な筈だ。

「どうしてそんな必死に課題をやってるんだ?」
「鬼道さんと会う前に粗方終わらせてた方が良いだろ?」
「鬼道に会うのか?」
「それに雷門の奴らに帝国の方が学力的に勝ってることを知らしめてやるんだ」
「どうしてそこで雷門が出てくるんだ?」

佐久間の言っている意味が良く解らなくて気付けば質問ばかりしていた。漸くテキストから視線を俺に移した佐久間は明らかに驚いた顔をしている。一体なんなんだ。

「どうしてって……お前、もう直ぐ雷門と合宿だろ?」
「……は?」
「だーかーら、雷門と合し」
「ちょっと佐久間来い!」

首根っこを掴んで引き摺るように部室を後にする。引き摺られながら色々言っていたが徹底的に無視を決め込んだ。

ああもうまたこいつは!

怒りを通り越して呆れの感情しか湧いてこない。佐久間の強引でゴーイングマイウェイな性格は知っていたし理解もしていた。しかしいくら何でも頻度が酷すぎる。其処まで勝手に決めるものなのか?!鬼道が居れば、鬼道が居れば、鬼道が居れば!!!

居なくなった人の事をあーだこーだと言っていても仕方が無い。だからこそ俺は無視を徹底したのだ。口を開けば、今なら佐久間に酷い事を言いかねないから。

佐久間を引き摺りながらフィールドに現れた俺を皆が怪訝な顔で見る。そんな視線にすら無視を決め込み、ウォーミングアップしていたのを中断させて全員を集めた。

そして引き摺って来た佐久間を皆の前に突き出す。なんだなんだと2、3年は取り敢えず佐久間がまた何かやらかしたのだろうと感づいたようだった。

「佐久間。また勝手に決めたな?」
「何のことだ?」
「雷門との合宿って何だ?俺は聞いてないぞ!」
「あれ、そうだっけ?」

俺の言葉に反応を返したのは佐久間ではなく、寺門だった。

「寺……門?」
「俺も知ってたぜ」
「辺見……」
「俺も」
「俺もです。源田先輩何で知らないんですかって逆に訊きたいんですけど」

咲山や成神までもが知っていたと言う。一体全体何なんだ。どうしてホームなのにアウェイなんだ。俺が頭の中でぐるぐると混乱していると、佐久間が「あっ!」と何かを思い出したのか声を上げた。

「お前、あの時遅れて来たっつーか円堂や立向居と喋ってたじゃん」
「は?え、それって……」

過去(と言っても今月中)の記憶を辿る。俺が円堂と話したのは今月に入って2回あったが其処に立向居が居たとなるとそれは雷門中との練習試合をしたあの日以外に無い。

「俺が其処に行く前にそう言う話をしてたんだよ。俺はてっきり円堂か立向居からその話を聞いてたもんだと……」
「聞いてない…」

む、とむくれると佐久間や成神が可愛い可愛いと言ってきたので何となく睨んだら二人とも押し黙った。普段はしっかり者なのに…と考えるも思えば影山の居た時代の記憶に過ぎない。影山が居なくなった今、雷門のようにとはいかないが以前と比べれば随分緩くなったものだ。

「もういい。練習する」
「あ。源田が拗ねた」
「可愛いです先輩」

静かになったと思えば再び口を開いた佐久間と成神に一睨み効かせる。別に怒ってはいない。ただ、悔しいだけなんだとランニングをしながら湧き起こった感情に気付いた。皆にそんなつもりは毛頭無いのも知っているし俺が悪いのも重々承知だ。けれどもどうしても「はぶられた」感が拭え無かった。

何周したのかも分からないランニングが終了したのは不動の姿が見えたからだ。

「不動!」

全然姿を見せなかった不動が来た事に喜びが隠せなくて、俺はそのまま不動の元へ駆け寄る。

「今日は珍しく気分が沈んでんじゃねぇの」
「分かるのか?!」

不動が来てくれた事と一目で俺の気分が分かってくれた事に益々喜ぶ気持ちは膨らむ一方だ。だから魔が差したと言うか、素直に喜びが表れたと言うか。兎に角、俺は思わず不動に抱き付いてしまった。

「っ!」
「源田ってめっ浮気か!?」

力任せに俺を不動から剥ぎ取ると佐久間は俺の両肩を掴む。本気で怒っているのか掴まれた肩がギリギリと痛みを訴えていた。

「佐久間、痛い」
「俺の目の前で不動に抱き付くとは良い度胸だな」
「あれは嬉しさのあまりだな…」
「問答無用」
「さくっ…ン」

こんなに乱暴なやつは久し振りだった。と言うか初めてかも知れない。今までは乱暴と言うよりは強引なだけで段々優しくなって来たのだ。けれども今は俺のせいで虫の居所が悪いらしい。

(俺は佐久間のせいで虫の居所が悪かったのに)

酸素が不足し思考回路も絶たれると苦しさだけが全身を支配する。どうしてこうも佐久間は自己中心的なのだろう。佐久間だからか。

漸く解放してもらった俺はそのまま地べたに膝から崩れ落ちた。思っていた以上に苦しくて、長くて、熱い。

「さく…っま、」
「腰砕けた?」
「う…さい」

上から勝ち誇った顔で見て来るのが何だか苛ついたので右足を軽く殴ってやった。今の俺はどうやら子どもじみてるくらい拗ねているらしい。それもこれも佐久間のせいだ。

「佐久間のせいだ」
「はあ?」
「責任…取れよ?」
「上等っ」

意味を理解したのか佐久間はニヤリと笑う。その笑いは決して人を見下すような目では無く、俺をちゃんとその瞳に映した上での笑みだ。只それだけなのにそれが嬉しくて、自然と俺も笑っていた。


後に聞いた話だが、合宿は下旬にやるらしい。その前に勉強会はやらなくても大丈夫なのだろうかと心配になったがそこはもう自己責任、と言うことでいいだろう。



*****
そもそも今時の中学生は何を習っているのかさっぱりわかりません。しかも帝国学園って学園って言うくらいだからエスカレーター式だと思うんですよね。となると、そういう所で良くあるのって1年前倒しってやつですが、どうなんだろう。
でも帝国って鬼道も居ただけあって絶対頭良い学校だよね!

201205.加筆修正


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