8月12日 [ 12/31 ]



ああ、本当だ。どうしよう。

取り敢えず、慣れって恐いな。

8月12日

それは、咲山のとある一言から始まった。


部活も終わりいつものようにストレッチをする。俺は佐久間と組んでいたのだが、丁度佐久間が俺の背中を押して長座体前屈をしていた時だ。俺達の隣で寺門の背中を押していた咲山が、ふと俺に話し掛けきた。

「なあ、源田」
「なんだ?」
「もう直ぐ学校だけど、どうするんだ?」

その言葉には「もし戻らなかったら」と言う意味も含まれてはいたがそんなことはどうだっていい。本当に、その通りなのだから。

「何言ってんだよ咲山。学校始まるまで2週間以上あるんだぜ?」
「お前こそ何言ってんだよ佐久間。15日は登校日だぜ?」

其処で今の状況が如何に重大な問題であるかを理解した佐久間は、無意識に背中を押す手に力が入っていた。別に押される分には構わないが胸が押し潰されて苦しい。と言うより、痛い。

「さっ佐久間、胸がっ胸が痛い」
「やっべ、すっかり忘れてた!」
「ンッ…佐久間、ってばあ」
「誘ってんのか」
「訳が分からんっ取り敢えず退いてくれ」

頭上から舌打ちが聞こえて来た気がしたが、聞き間違いだと思いたい。佐久間は手を退けると依然足を伸ばしたままでいる俺のそれを跨ぐように膝立ちした。目線の高さは当然向こうが上なので自然と上目になる。

佐久間の瞳には俺が映っていた。キレイだな、と言う感想は飲み込まれて言葉として現れはしなかったけれど。

「な、なんだ?」

無言で顔から胸を舐めるように見る佐久間にドキドキと胸が脈打つ。

「あと3日でその乳が引っ込めばいいけどな。まあ無理だった場合を考えるか」

膝立ちから太股に腰を下ろし、育った胸の感触を確かめるかのように触り始める。その突然の行動にうまく反応出来ず、後ろに倒れそうになったのを佐久間の腰辺りのユニフォームを掴むことで何とかそれを阻止した。

口から漏れる甘い声に一同唖然とする。

「や、ぁ…っ佐久間っ」
「一層のこと女子の制服か?」
「ンッ、ぁ…さ、くまっ佐久間!」
「ってもどうやってそれを調達するかだし」
「ひぁっ、ァ…ぁんッ…ふ、ぅン」
「そもそも調達した所で先生やクラスの奴らに何て言うかだよなあ」

俺の話を聞いているのかいないのか(恐らく両方だ)、佐久間の動きは止まらない。否、寧ろ動きがよりイヤらしく感じる。体がまるで自分の物ではないようだ。

「佐久間先輩っ!いつまでセクハラしてるんですか!いい加減にして下さいよ!」
「んだよ眉神。源田の声で勃ったのか?」
「成神です。勃ってません」

佐久間がにやにやしながら挑発的に訊くと、成神は直ぐに乗ってきた。成神、お前、佐久間に遊ばれてるんだぞ。

俺が佐久間のセクハラから解放されたのは、咲山が釘バットで佐久間を払い退けてからだった。その時、名残惜しく感じて涙目になったが佐久間に触られていた時から既に涙目だったので誤魔化せたはず。しかし何故。

「お前、担任誰だっけ?」
「数多先生だが?」
「あまたぁ?知らねー」
「佐久間のクラスも数学受け持ってる筈だが?」
「アイツ数多って言うのか。しかも源田んとこの担任だったのか。生徒に覚えられない教師ってどうなんだ」

一学期の間にたった一人の教師の名前すら覚え無い佐久間もどうなんだと思う。まあ、それでも数学の点数はいいからなコイツ。

先生に言うのを避けて通れる道とは思え無い。仕方が無いので報告だけはしようと思った。何か対策を取って貰えるかも知れないし。

「数多なら明日は職員室に居るんじゃね?」
「何で寺門が知ってんだ?」
「寺門は同じクラスだぞ」

本当に知らなかったのか、佐久間は目を丸くして俺と寺門を交互に見る。そして自分を納得させるかのように頭を振ると、自分より身長のある寺門の襟元を掴んで前後に揺さぶり出した。

「って事は、以前は源田と鬼道さんを両手に華状態だったってことか?そうだよな?今は源田を独り占めか?」
「佐久間っ!寺門を虐めるな」
「うるせぇ、揉むぞ」
「もう充分揉んだだろう!」

冗談と分かっていても佐久間ならやりかねない気がして、思わず両腕で胸を隠す。

「不動も同じクラスだよな!」
「あ?そうだったか?」
「お前がサボってばかりいるから…。サボリは良くないぞ?」
「つまんねー授業聞くよりサッカーしてた方が断然いいだろ」
「む、それは一理あるな……」
「ねーよバカ!学生の本分は学問に勤しむことだろうが!」

危うく不動に流される所を辺見が引き止めてくれた。危ない危ない。

「珍しく辺見先輩が格好よく見えました」
「つーかお前そんなこと云う程勉強出来たっけ?」
「五条先輩の方が出来そうなイメージではあります」
「アイツより俺のが出来る」
「え」
「何だよ」

話はどんどん逸れ始め、終いには誰が部内で一番頭がいいだのこいつは理系が得意だの英語は誰が良く出来るだのそんな話ばかりになってしまった。まあ、明日先生に報告と言う事実は変わらない訳だし。

こんなに話が逸れながらもみんなストレッチしながら話すのだから器用なものだ。(時折中断する者もいたが)

明日の事を考えると不安だらけで仕方が無い。かと言って登校日に休む訳にはいかない。仕方が無いのだと自分に言い聞かせて心を落ち着けた。

(本当は、佐久間にぎゅってしてもらう方が落ち着くんだけどな)

今日の部活終了後はいつもより賑やかで騒がしかったが、それに比例して楽しかった。咲山が口にした夏休みの宿題についての話題の時は大半が耳を塞いでいたので、これは勉強会を開かねば。恵那先輩主体でどうだろう。


咲山は、案外しっかり勉強しているんだなあと部員の意外な一面を見ることも出来た。そんな夕方。



*****
私は、全然しっくりいかないんだなあと文才の無さを改めて痛感することが出来た。そんなお昼。

何か勝手に先生とか出しちゃったし、クラスとかも勝手に決めちゃったしフリーダムだな!これ!

201205.加筆修正




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