8月11日 [ 11/31 ]



今度から、じゃんけんに勝った者にしないか?

8月11日

暑い。ただこの一言に限る。

ユニフォームから私服に着替えて(今日は特に暑かった上に出掛ける予定も無かったからホールターワンピにしてしまった)、財布を持って帝国の校門を潜り抜け外へ出る。

帝国周辺が人気の無い通りなのはいつものことだ。過去の影山の行動もあってか、あの人がしてきた行いに対しての恐怖感が未だに根付いているのだろう。そう思うと何だか悲しくなった。

(みんな良い生徒なのになあ)

今日は部活が休みなわけではない。なのに何故、俺が外に出ているのか。恨めしく思いながらほんの15分前に記憶を遡らせる。

通常の練習をしていたのだが、模擬試合中に成神が寺門と接触して捻挫してしまった。部室にある救急箱を持っていったので応急処置は出来たが、救急箱の中身は残り3枚の絆創膏と湿布の切れ端、先着一名と思われるテーピング用のテープしか入っていない。アイシングの為のスプレー缶もあったが先程の成神に使ったものが最後だったらしい。もう誰も怪我出来ない状況なのだからこれは由々しき事態だ。みんなもそう思ったのか口々に「流石にこれは酷い」と言っていた。それを聞いた佐久間がいつもの調子で言う。

「じゃあ代表して誰か行って来い。因みに俺は行かない寧ろ行けないつーか行きたくない」

この言葉に誰も何も言わないのは、反論して「じゃあお前が行け」と言われるのが嫌だからだ。結局、佐久間と成神以外でじゃんけんをすることになった。まさか一発で決まるなんて誰も思わなかったろう。俺も思わなかった。しかし、事実一発で決まってしまった。

二名抜けただけでそう対して人数が減るわけでもないのに、一つの大きな円を作ってみんな一斉に円の中心に向かって拳を突き出す。あいこが延々と続くのに、と思いながらも俺も拳を突き出す。
佐久間の「当然負けた奴な」と言う声にみんなの顔がより一層真剣になった。
その顔、練習や試合の時だけで充分じゃないか?

そして、第一回戦で見事に勝敗がついた。俺以外全員がチョキで、俺だけがパー。最早ミラクルとしか言いようが無い。


その時の右手を握ったり開いたりしながらじっと見詰める。あの時この手を握り締めていたならば……何て考えていても後の祭りだ。結果は結果。どうにも変えられない。

「必要無いだろう。特にペンギンの冷却シート」

買う物をリストアップしたメモは二枚にも及ぶ。明らかに私物が混ざっているが頼まれた物は仕方が無い。料金は立て替えと言う形にしてやろう。

全て揃えるには近場では済ませられそうに無い。電車で10分足らずの所にある大きなドラッグストアと其処の斜め前にあるスポーツショップに行くことにした。

駅で電車を待って居ると見知った人物が視界に入った。そう言えば最近全く姿を見なかったなー…何て呑気なことを考えていたら、自然と足がそっちに向かっていた。

「不動!」

不機嫌そうに振り返ったそいつは俺の顔を見て更に不機嫌な顔になった。何となく予想はしていたが、当たるなら当たるで悲しくなる。

「……源田?」

暫くの沈黙の後、発せられた言葉は訝しんだ声音だった。何を疑っているのかと思った瞬間、今の自分の姿を思い出したのだ。自分に気付くと急に恥ずかしくなってみるみる顔が赤くなって行くのが分かる。

「……っ」
「お前、いつから女装趣味に走ったんだ?」

小馬鹿にするような態度は相変わらずだが、今はそんなことよりも誤解を解くのが先だと判断した。

「総帥のせいなんだ。女装じゃなくて、体ごと……その……」

ホラ、と証拠を見せるように急成長を遂げた育った胸をきゅっと寄せる。元々出来ていた谷間がより深くなった。
不動は度肝を抜かれたように目を丸くしていたが、直ぐに溜め息を吐いて呆れた顔になる。

「随分女よか女らしい体になっちまったな」
「正直、邪魔でしょうがないんだ」

寄せては離し寄せては離しを繰り返す。その度にふにっとした感触の後、たゆんと揺れる。ボリュームのあるそれはいつ見ても印象的だった。

「不動、これから用事か?」
「さあな」
「手伝ってくれないか?」
「俺まだ何も言ってねーけど」
「暇なんだろう?」
「疑問が疑問に聞こえねーのはなんでだ?」


結局(半ば無理矢理に)不動と一緒にドラッグストアに向かった。メモに書かれた商品を指定の数だけ籠に入れる。二つ三つの商品を入れただけなのに籠は充分な重さになっていた。

「買いすぎじゃね?」
「今の救急箱は無さ過ぎなんだ」

救急箱の中身を思い出すと自然と眉が下がる。どうしてもっと早くに気付かなかったのだろう。以前よりお世話になることは少なくなったとは言え、いつ何時怪我をするかも分からない。油断していたわけではないが、安心しきっていた部分はあった。

山盛りの籠をレジに持って行くとレジ袋が三枚使われた。ずしっとくる重みだがこれだけでは終わらない。次は、スポーツショップに行かなければならないのだから。

「まだ買うのかよ」
「頼まれたからな」

ガサガサとレジ袋独特の音を立てながら歩く。何だかんだ言いながら一緒に来てくれる不動が可愛くて仕方が無かった。

スポーツショップでの買い物は主にみんなの個人的な物が多かった。ペンギンの冷却シートはこのショップオリジナルらしい。

「それは明らか個人用だろ」
「此処で買うのは殆どがそうだ」
「はあ?KOGとも呼ばれるお前がパシリかよ。KOGの名が泣くぜ」

わざとらしく悪態をつくのも不動らしい。けれども不動は決して悪い奴じゃないことを俺は知っている。現に俺が買い物をしている今でもドラッグストアで買った分の袋を全て持ってくれていた。重さは充分あるのに重いとか早くしろとかそう言った類の文句は一言も漏らさない。



「ありがとう、不動」
「は?」
「助かった」
「そーかよ」
「そうだよ」
「うぜえ」

帰り道、駅から帝国へと歩いていく。丁度みんなは休憩を取っている時間だろう。一人の時は暑かった道も、二人で歩くと暑さが幾分か和らいだ気がする。今の時間の方が最高気温に近いのに不思議だ。

部室に寄らずそのままスタジアムに行けば、みんなが芝生に座り込んでいるのが見えた。

「ただいま」
「先輩っ!お帰りなさああいっ!」

立ち上がろうとした成神の足を辺見が掴んでそれを阻止する。掴んだ足が捻挫した所だったのか「ギャッ!」と言う痛々しい声が響く。

「遅い」
「すまん…」
「さっさと寄越せ」

不機嫌な声が佐久間の背中から伝わった。一体何に対して怒っているのだろう。俺が居ない間に何か合ったのだろうか。さっきから俺の顔を見ようとせずにずっと後ろ向きなのは矢張り俺に対しての怒りか。しかし身に覚えの無いことなので、記憶を手繰り寄せても原因が分からない。

「あ、ごめんな不動。重かっただろ?」
「別にどうってことねぇよ、これくらい。男ならな」
「本当に助かった」
「おい」

不動と俺は救急箱の傍に座り中身を詰める作業に移ろうとしていた。すると、今までずっと背を向けていた佐久間がやっとこっちを向いてくれたのだが、その表情はあまり穏やかでは無い。滅多に聞けない佐久間の一段低い声に、思わずびくりと肩が揺れた。

「何だ?」
「どうして不動が一緒なんだよ」
「駅で偶然会ったから、手伝ってもらったんだ。思った以上に重くなったから助かったよ」

な、と言って笑って首を傾げれば、不動はあしらうように鼻で笑った。あ、今のは少しだけ傷付いたぞ。

「不動も一緒に練習しないか?全然来て無いだろう?お前も帝国の仲間なんだから、ちゃんと練習に参加しないとダメだぞ!」
「っせー。それより、お礼とかねーのかよ」

上体を前に出して俺との距離がうんと近くなる。確かに無理矢理手伝わせてしまったんだ。お礼しないわけにはいかないだろう。

「バナナ、買い忘れたな」
「んなもんより、他のがいい」
「何だ?」

距離が段々近くなる。俺はそれが縮まらないように上体を後ろへ倒す。気付けば背中には芝生、視界にはスタジアムの天井や照明が広がっている。そして天井の代わりに不動の勝ち誇った顔が見えたのは間も無くしてからだ。

「お前が食べたい」

不動の発言に皆がどよめく。成神に至っては先程辺見に掴まれた以上の奇声を上げていた。

「その体、誰も味わってねぇんだろ?」
「は?え?」
「最初は痛くても段々気持ち良くなるぜ」
「不動?何を言っているのかさっぱり……」
「俺に身を委ねろって言ってんだよ」
「不動ぉぉおッッ!」

佐久間の怒声が響くと同時にボールを蹴った音が聞こえた。不動もそれに素早く反応して、ボールを蹴り返す。そしてそのまま何故か二人はフィールドの中へと入って行き、1on1で攻防戦を繰り広げていた。

結局、不動は何がしたかったんだろう?

咲山が寝そべったままの俺を起こしてくれた。そして激しいプレーを繰り広げている二人を見ながらそっと耳打ちする。

「佐久間、お前が一発でじゃんけんに負けたのにキレてたんだよ」
「…は?」

そんなのあまりにも理不尽過ぎる。あれは謂わば運なのだから、仕方の無いことだと言うのに。

「本当は着いて行ってやりたかったけど、ああ言った手前、行くに行けなくて結果お前を一人で行かせることにしてしまった自分に腹立ててる…と言う推測だが、自信はある」

靴紐サンキュー、と最後に残して咲山はベンチに向かって行った。あの二人が終わらない事には練習も再開出来ないのだから仕方無い。

救急箱に詰め終わると、俺は「着替えて来る」と寺門に断って部室へ向かった。


もし、咲山の推測が当たっていたとしたら……。


スカートと言うのは外から来る熱に対しては通気性が良い分幾らか和らげてくれるが、内側から来る熱に対しては何の効果もないことを知った。

取り込んだ風が、体の内側まで届けばいいのに。



思わず持って来てしまったペンギンの冷却シート、使ってしまってもいいだろうか?



*****
イナイレ3のあっきーおはただのイケメンでびっくりしました!
あれなら源田も落とせますよね!(※サッカーゲームです)

201205.加筆修正




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