苦手、何だけどなあ…。
きついし、苦しいし。
8月9日
昨日の雷門中との練習試合の時、音無にこっぴどく叱られてしまった。理由はただ一つ。俺が下着(所謂ブラジャー)を着用していなかったからだ。苦しい等の言い訳は理由にはならないらしく、聞く耳すら持って貰えなかった。
だから、今朝は約一週間振りにソレを付けているのだが、何だか以前よりも苦しく感じられる。気のせいだろうか?
「さっさと用意しろよ」
突然部屋の中に響く声に体はびくりと震え心臓が跳ね上がった。この部屋には俺しか居ない筈なのだから。恐る恐る玄関の方を見ると、丁度靴を脱ぎ終わって此方に向かってる途中の佐久間と目が合う。
「何でお前が此処に居るんだ?そもそも鍵が掛かってた筈だが…」
「鍵?んなもんどうにでもなんだろ」
どんなに問い詰めてもドアを開けた詳細については教えて貰えなかったが、寮を出る時に管理人室に寄っていた所を見ると上手いこと言いくるめて鍵を借りたんだなと分かるのはもう少し先のことだった。
「お前がもたもたするだろうと思って」
「相変わらず話題が唐突だな」
「今日は源田がブラつけて来ると思ったから手伝ってやろうと」
「余計なお世話だ」
「昨日鬼道さんの妹に怒られてんの聞いてた」とニヤニヤしながら言ってくるものだから少しだけ苛っとした。ニヤついてても、佐久間の顔は整っているのだから不思議だ。佐久間はご両親に感謝すべき。
「後、お前胸デカくなったろ」
「はい?」
「だーかーら、胸のサイズがデカくなったろ?」
最近の肩凝りの主な原因であるこの胸は成長しているのかとショックを受けた。只でさえ邪魔なのに。
依然として下着姿の俺を佐久間はまじまじと見る。その視線に耐えきれず、体を隠すように縮こまった。
「あ、あんまりじろじろ見るな。何か……恥ずかしいから」
「男だもん」
「だからっ」
「お前、隠しても隠しきれてないだろ」
腕の隙間からはみ出るように姿を現す肌は紛れも無い胸そのものだった。最早隠す方が逆に相手を煽っている気さえする。
「大体、何で知ってるんだ?」
「デカくなったって?」
「露骨な表現もどうかと思うぞ」
恥ずかし気の欠片も感じられない佐久間の態度に呆れを通り越して最早潔さを感じてしまう。公の場ではそんなことも無いのだろうが、佐久間の辞書に「親しき仲にも礼儀有り」と言う言葉は記されていないらしい。
「昨日抱き締めた時に育ったなーって思ってさ」
「……っ!ばかっ!」
佐久間が俺の腕を引っ張り、昨日の事を再現するように抱き締める。ただ昨日と違うのは、場所とか時間帯とか服装だったりするのだが、何故かベッドに沈んでいるのだ。
「佐久間っ、寝てる場合じゃないだろ?」
「俺、朝早かったから眠いんだけど」
「俺の知ったことか」
「ひっでぇな」
クスクスと力無い佐久間の笑い声が頭上から降ってきた。それはそれは眠気を纏っているのが伝わって来るほどの覇気の無さだ。部活中の佐久間とは大違い。恐らく、授業中の佐久間に近いものがあるのだろう。(授業中の佐久間は良く知らないが)
「お前さ」
「ん?」
現実と向こうの狭間で佐久間はトロンとした声を出す。いよいよ眠る気だな、こいつ。抱き締める力は昨日ほど強くは無いが、かと言って弱くもない。
鼻孔を擽る匂いは佐久間の匂いだ。汗と土の匂いではなく、いつもの、ノーマルな時の佐久間の匂い。相変わらず落ち着かせてくれる佐久間の匂いに酔いしれていると話を時折途切れさせながら紡いだ。
「すっげー、いい匂いだよな」
少しだけ、腕の力が現実に引き戻ったように強くなる。
「俺、源田…が、好…」
「佐久間?」
何かを言いかけた佐久間が力尽きたのか言葉が途切れる。しかも現な状態だった為か、言葉がもごもごと霞んでいてうまく聞き取れなかった。理解出来たのは、一人称だけだ。
時計は止まること無く時を刻んでいる。結局佐久間は何をしに来たのか分からないが、此処に来る為に頑張って早起きしたのだろう。そう考えるとつい甘やかしてしまった。
すやすやと規則正しい寝息を立てる佐久間に抱き締められたまま、俺は後15分くらいなら大丈夫かと時計を確認して身を委ねる。
8月なのに抱き締められて暑苦しいと感じ無いのは、俺が下着姿のままだからに違いない。寧ろそれ以外の理由が考えられなかった。体は火照る一方なのだが離れたいとは思わない、という感情については真相を模索中だ。
15分後に無理矢理起こすと、第一声が「誘ってんの?」だった時は流石に殴ってしまった。
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私も源田の半裸で目覚めたいです。←
むちむちぼでぃを抱き締めたい!
201205.加筆修正
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