春コミ無配‐1 | ナノ

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お題:『自転車』で【靴下】【走る】を入れて(同級生)

夕立の雨の中、チェーンの外れた自転車を押して歩く。
髪も服もスニーカーの中の靴下もびしょ濡れ。でも、アイツの家まであと少し。
「十四郎!」
顔を上げると傘を持った坂田が走ってくる。
「なんでお前傘持ってんのにささねぇんだよ…」
少し可笑しくて、酷く愛おしくて、駆け寄る恋人に笑ってみせた。


「お前びしょ濡れじゃねーか。今から行くってメールもらったのに全然来ねぇし、事故ったかもしんねーどうしよ…とか心配してたらすんげー雨降ってくるしょォ。もう心臓に悪いわ。早くウチ行って風呂入って着替えて…」
「つーか、おめーも濡れてんぞ」

そう言って、坂田の方を見遣ると。

「そうだけど、お前ほどじゃねー」

もう手遅れなほど濡れている俺に傘を差しながらヤツはやっと俺の目を見て、それからフッと小さく笑った。さっきの怒ってる様な、必死そうな顔も普段はあまり見られないから新鮮ではあったたけれど。やっぱりコイツは笑ってる方がいいなと思う。

玄関に入って靴を脱いだとたんに風呂場へ押し込められた俺は、言われるがままに熱いシャワーをゆっくりと浴びた。

「とーしろー、着替えここ置いとくから」
「おー、悪いなー」

風呂から出て坂田が用意してくれたスウェットを着てみる。体格は同じくらいだからサイズは問題ないが、自分の家とは違う柔軟剤の匂いに何故か心が落ち着かずそわそわしてしまう。そういえばコイツの家で風呂に入ったのも、服を借りたのも初めてだった。

「それ、ちゃんと洗ってあるから大丈夫だと思うけど…」

風呂から出ると台所に立つ坂田がこちらを見ないまま声を掛けてくる。部屋にはコーヒーの香りが漂っていた。

「あ、あぁ…大丈夫………」
「あの、熱いコーヒー淹れたから。ブラックだろ?」
「おう。ありがと」

台所からマグカップを手にして部屋に戻った坂田からそれを受け取り、もう三月も半ばだというのに未だしまわれていないコタツにもぞもぞと入る。坂田はいつもの定位置である座椅子に座ってイチゴ牛乳のパックにストローを突っ込み、映ってないテレビの方をぼんやりと眺めながらそれを飲んでいた。部屋には俺のコーヒーを啜る音と、坂田のストローを啜る音だけが響き渡る。

っていうか。何なんだ、この空気。
何をそんなに意識してんだ。しかも二人して。
いつもバカ話しかしてねぇだろ、俺ら。

どのくらいそうしていただろう。多分五分も経ってない。この意味不明な沈黙を打ち破ったのは坂田だった。

「だぁぁぁぁぁぁぁ!もう無理!!十四郎こっち来て!!」
「はぁ!?ってうおっ」

いきなり大声を出したかと思ったら、坂田はキッとこちらを睨んで手にしていたいちご牛乳のパックを乱暴にこたつへ置き、それからぐいっと俺の手を引っ張った。

「十四郎こっちに入って!こっち!!」
「なんでだよ!?狭ぇだろーが!」
「いいから!早く!!」

何が「早く!!」なんだかさっぱりわけがわからないが、物凄い力で引っ張られるのでとりあえず俺は座椅子を脇に寄せてスペースを空けた坂田の傍に移動し、その隣に腰を下ろしてコタツに脚をねじ込んだ。と同時に、またもや物凄い力でぎゅうっと抱きつかれる。

「十四郎が俺のスウェット着てるし、なんかそれが似合っててしかも可愛いし、半乾きの髪は色っぽいし、十四郎から俺と同じ匂いするしィいいいいいいい」
「お前ちょっと落ち着けって!」
「これが落ち着いていられますかコノヤロー!」

俺の体をぎゅうぎゅうと締め付けながら首筋に額をこすり付けてくる坂田は子供みたいで、まぁコイツはいつも子供みたいなヤツではあるのだけれど、俺はその背にそっと片方の手を回し、もう片方の手で俺の首筋をくすぐるフワフワで銀色の髪をそっと手で梳いてやった。微かに鼻をついたのは、自分と同じシャンプーの香り。

「マジで心配したんだからな」
「…うん、ごめん。チェーン外れちまって」
「それは仕方ねーけど…もうこういうの勘弁な。心臓もたねーわ、これ」
「悪ぃ。今度は先に連絡入れる」
「ん。頼むわ」

普段とは全然違う頼りなくてくぐもった声が耳に届く。その声はコイツの心の動揺がいかほどだったかを物語っていて。罪悪感と、不謹慎だが嬉しさがこみ上げる。

「とーしろ、あったかい」
「風呂入ったし、コーヒー飲んだしな」
「とーしろ、いい匂いがする。俺んちのシャンプーの匂い」
「おめーんちの風呂に入ったからな」

「…とーしろ、……好きだよ」
「……俺も、好き、…だ」

そう返すと坂田は俺から少し体を離し、優しく唇を重ねてきた。いつもと同じ、甘い、いちご牛乳の味。

「一緒に住んだらこんな感じなんかな」
「多分、そうだろうな」
「え、でも俺、十四郎には『おかえりー』って玄関で出迎えて欲しいんですけど!語尾にはハートマーク的な?そんでもって出来れば裸エプロ……ぐぼぁ!」

やっぱりコイツはこのくらいが丁度いい。
こんな風に二人でバカなことを言い合いながら暮らすのも悪くねぇなと思いながら、涙目で鳩尾をさする坂田の唇に今度は自分から軽くキスをした。



同級生大好きです!!読んでくださってありがとうございました!!
2012/03/18

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