:: 坂田家のお正月-1 「お前らお汁粉できたぞー」 2012年元旦。 坂田家長男、坂田銀八の声が坂田家のリビングに響き渡る。 「やたっ!雑煮もいいけどやっぱ正月は八にぃの作った汁粉に限るよなー」 いち早くその匂いを嗅ぎつけ、コタツに座るのは三男の白夜。 「銀八のお汁粉は世界一ですからね」 自分が作ったわけではないのに、何故か得意顔の次男銀時は銀八の双子の弟。 「あのさ、元旦からナチュラルに惚気んのやめてくれませんかねお兄さん……」 「いや、だって本当のことだし」 「あ、そっすか…。(素でドヤ顔とか、もうツッコメねぇよ…)」 そして。 「金時もおいでー」 「あーい!!」 元気良く返事をした後でトコトコと兄達に寄っていくのは、歳の離れた四男の金時。 「はい、じゃあまずは。明けましておめでとうございます」 「おめでとうございます」 「あけおめー」 「おめれとごじゃますっ」 「よし、いただきます!」 「「「いただきます!」」」 ーー銀八の場合ーー 「あれ…白、食べないんですか?」 いつもなら真っ先に箸をつける白夜に向かって、銀時が問う。訊かれた方の白夜はもの言いたげな目で銀八を見つめたまま。 「だぁああ!!わかったよ。これだろ?はい、お年玉」 「さんきゅー!!」 銀八から手渡されたポチ袋を手に、今にも踊りだすかの如く浮かれる白夜。自分用に冷まされた汁粉の中の小さく切られた餅を食べていた金時が、そのやり取りをじぃっと見つめてから隣に座る銀八の袖をくいくいと引っ張った。 「はちにぃ、きんのは?」 「お年玉は金時にはまだちょっと早いかなー。もちょっと大きくなったらな」 「やだ…きんもおとしらま!!」 「だから、もうちょっと大きく……」 「「………(ヤバイぞこれは、来るっ!!)」」 銀時と白夜の予想通りだった。金時の瞳がみるみるうちに水の膜で覆われる。 「…ふ、ふぇ……うぅ、うわぁああああああん」 「金時の前であげるからですよ。新年早々泣かしちゃって可哀想に」 「泣かしてやんのー」 「白、てめーのせいだろーが!銀時もそう思ってたんなら先に言えよ!!」 「…ひっく……ぅぐ、…うぇ…うぁああああああん」 「あーあ。こうなったら金時はもう手がつけられませんね」 「あーあ、あーあ」 「ッ!!だぁあああああ、わかったよもう!!」 銀色の天パ頭をぐわぁっと掻きむしってから銀八はガタンと席を立ち、自室に向かったと思えば小さな紙袋を手にリビングへと戻ってきた。 「はい、これが金時のお年玉な?すっげー美味いんだぞ」 「「………(あ、あの箱はピ、ピエールマルコリーニのチョコ…!?)」」 「銀八、これどうしたんですか?」 「…こないだ買い物行った時にデパ地下で買ってきた」 「んなこと一言も言ってなかったよな。テレビ観てる時にその店が特集されてて、いつか食ってみたいなぁってみんなで言ってたのに!」 「ボーナス出たから自分へのご褒美で買ったんですぅー。俺の金で買ったんだから文句ねーだろーが」 「ま、そうですけど…一言言ってくれれば良かったのに」 「そうだよ」 「だって言ったらおめーらに食われるだけじゃん」 「「………(ま、そうだけど…食べてみたい……!!)」」 「ご飯食べらんなくなるから、今日じゃない日のおやつの時にちょっとずつ食べような」 「ひぐっ…ぅ、ん…」 「だからもう泣かないの。男の子だろ?」 「あい」 「はい、いいお返事です」 「はちにぃ、ありがと!!えへへ」 涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、はにかむように笑うその様があまりにも可愛らしくて。もう自分達には親がいないからこの家の長男として末っ子の金時を厳しく躾けなければと常日頃思っているのに、どうしても甘やかしてしまう。 この笑顔には今年も勝てそうにねぇな、と心の中で呟いてから、銀八は苦笑しつつも親指で優しくその涙の跡を拭ってやる。 「き、金時。後で白にぃのお菓子とそれ交換しねぇ?」 「白、おまえって奴は……」 「大人げないにも程がありますよ」 「…嘘です冗談ですごめんなさい」 兄達の白い目に耐えられなくなった白夜は、誤摩化すように目の前の汁粉をかき込む。当の金時はそんな兄達のやり取りを気にも留めず、銀八からもらったチョコレートの箱を大事そうに膝の上に抱えながら、満面の笑みで再びお餅を食べ始めた。 →next [back to 銀銀部屋] [top_mobile] [top_PC] |