2人の30cm(1) | ナノ

:: 2人の30cm-1

理由なんて、上手く説明できない。
どうしても、心がざわめくから。
あそこに行けば、何かが掴めるような気がするから。

だから今、あの場所へ。
何かに、突き動かされるようにーー。


【2人の30cm】


 その日、土方たち銀魂高校3年Z組の生徒達は、夜の帳が下りきった空き地に立っていた。

 事の始まりは、イベント好きで、見かけによらずロマンチストである近藤が「ふたご座流星群を観ましょう!」と、クラスメイトで想いを寄せている志村妙を誘ったことから。それがいつの間にかクラス全体の行事になっていて、当然のように『3Z 天体観測会』の幹事になった近藤から「トシも受験勉強の息抜きに参加しろよ!っていうか来てくれ...」と泣きつかれた土方も、しぶしぶ参加を決めた。

 当然観測は夜に行うので、担任である坂田銀八も引率として駆り出され、その空き地に来ていた。やる気のない銀八のことだから、おそらく近藤から甘味で買収でもされたのだろう。当初の計画だと観測場所は校舎の屋上だったが、3Zだけ特別扱いするわけにはいかないと校長のお登勢から許可が下りず、その代わりにと彼女の知り合いが持っている空き地を使わせてもらえることになった。その空き地は高校から少しだけ離れた場所で、周りにあるのはわずかな民家と田んぼのみ。天体観測にはうってつけの場所だった。

 日が落ちてから暫く経った頃にぽつぽつと集まってきた3Zの生徒達は、いつも教室でそうしているようにそれぞれが自由気ままに空を見上げ始める。家から持ってきた望遠鏡を自慢する者、レジャーシートに仰向けになってただひたすらに空を観る者、星を観るよりもおしゃべりに夢中な女子のグループ。まだ月が出ている時間だからたくさんの流星は見られないが、それでも空に星がキラリと流れる度にあちこちで歓声が上がる。

 そんな中、新八はみんなに温かい飲み物を配り、近藤はお妙に張り手をくらい、沖田と神楽は激しい喧嘩を繰り広げていて。これじゃ教室とまんま一緒じゃねーか、と土方は苦笑しながらその空を見上げた。受験勉強も佳境の今、正直こんな悠長なことしてる場合じゃないと思っていたが、想像以上にその空がキレイで。たまにはこんなのも悪くねぇな、と独りごちる。

 すると、隣から「そうだな」と声を返された。

 驚いてその声がした方を見ると、銀八が隣でタバコを咥えながら、自分がさっきそうしていたのと同じように空を見上げていた。眼鏡に月の光が反射して表情が伺えないのを少し残念だと思うと同時に、夜の闇に溶け込む銀色の髪に目を奪われる。

 この担任を意識するようになったのはいつからだろうか。土方が3年Z組の生徒になり、その担任が銀八になり、しばらく経った頃からそれを感じていた。ふとした瞬間に感じる『視線』。何か物言いたげで、時に悲しげで、寂しげで。ただ、それが自分の勘違いかもしれないと思うと、その意味を本人に聞くことはできないでいた。上手く言葉で説明する自信も、ない。

 それでも、何か言葉を紡ごうと口を開きかけた時。

「せんせー、ちょっとこっち来てー!!」
「...んだよ、うっせーなぁー。はいはい、今行きますよー」

 その声で、我に返る。自分自身、何を伝えようとしたのかはわからないままに。

 それからしばらくして、3Zの天体観測は解散となった。元々お登勢から、受験生でもあるし、未成年でもある彼らに夜遅くまで外出させないことを条件に開かれたこの天体観測だったが、いくら精一杯着込んで防寒してきたとしても真冬の寒空の下、そう長時間いられるはずもなく。辺りを見渡すと、幹事である近藤はおそらくお妙を追ってだろうが既にその姿はどこにもなく、沖田はその事態を予測していたのか当然のごとく消えていた。

 土方はふぅ、とため息を一つ吐いた後で、ひとまずゴミなどが残されてないか確認しようと空き地をぐるりと一周する。一通り確認し終えて、これなら問題ないだろうし、そろそろ帰ろうと顔を上げたところで後ろから唐突に声を掛けられた。

「オメーも損な役回りだなぁ。もうそろそろ帰っていいよ?あと、やっとくから」

 振り返ると、そこには銀八が立っていた。もう一度空き地を見回すとクラスメイトは既に全員帰ったようで、誰もいない。

「いや、もう終わりました」
「そっか...じゃあ帰るかぁ。土方くんち、どっち?」
「こっちです」
「あ、オレも」
「バイクじゃ、ないんですか?」
「アイツらに壊されたくねーから歩いてきた」

 僅かに会話を交わした後で、空き地を出て星と月明かりだけが照らす小道を歩き出す。と同時に、銀八はタバコに火を点けた。辺りに漂う紫煙とその香り。そして2人の間には、30cmほどの距離。なぜだかそれを、酷くもどかしいと思う。

 コートの中に両手を突っ込み、マフラーに顔を半分埋めながら、2人無言でその道を歩いた。何かを話したいような気もしたが、言葉もなく並んで歩くのも悪くないと思えた。その時間が思いの外、心地良かったから。来る時は意外と遠く感じた道のりも、帰りはあっという間で。いつのまにか、自分の家まであと数十メートルというところまで来ていた。

「じゃ、ウチこっちなんで」
「おー。お疲れさん。暖かくして寝ろよ」

 銀八はその顔を背けたまま土方の頭にぽんぽんっと手を乗せてから、顔の横で手を軽く上げて去っていく。それを少しだけ見送って、土方は家までの道を急いだ。冷たい夜風がその手の感触を攫っていってしまいそうだ、と。消してしまいたくない、と思ったから。



次で終わります!!
2011/12/15

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