いけ好かない男。のおまけ | ナノ

:: 乞い、乞われ。

初めて会った時も、警察まで迎えに行った時も。
いつだってオレに向けられる視線は凍てついていて。
でも、そんな目で睨まれても怖くないんだ。
だって、その目はーー。


【乞い、乞われ。】


「ただい、ま......」

クライアントとの打ち合わせから戻ると、自分のデスクに突っ伏している男が目に入る。髪の色を見れば、それが誰なのかは一目瞭然だった。トトトトと足下に寄ってきた子猫を一撫でした後で、静かにその傍へ寄る。

その腕に顔を横向きに乗せ、目を瞑って規則正しい呼吸をしているところを見ると、どうやら彼は眠っているようで。衝動的に手を伸ばし、頬に掛かったその髪をそっと掻き上げた。デスク脇に暖房があるせいか少し寝汗をかいていて、地肌が微かにキラキラと光り、根元の黒髪部分が艶めいている。

早くその部分が伸びて、また前のような黒髪になればいいのに、とか。でも実のところ、今のどこかアンバランスな髪も嫌いじゃないな、とか。ぼんやりと考えながら、もう一度だけ、柔らかくそれを手で梳いた。

穏やかな寝顔をじっと見ていると、何かが疼く。
酷く無防備で、危うくて。

めちゃくちゃにしてやりたい気持ちと、自分の腕の中に閉じ込めて大切にしてやりたい気持ち。それらがぐちゃぐちゃになって胸の中でせめぎ合う。

だって。

初対面で見せた、この世の全ては自分の敵だと言わんばかりの視線。
愛猫と戯れている時に見せた、無邪気な笑顔。
警察に迎えに行ったオレを見返した、鋭さに諦観の混じった眼差し。
ずぶ濡れで俯きながら事務所のドア前に佇んでいた、その姿。
猫を飼ってくれないかと頼んできた、僅かに震える声。

それらに触れる度に思った。
コイツは 愛を乞う生き物だ、と。

そのうちに思うようになった。
愛を乞われている、と。

自分でも笑えてくる。
単なるクライアントの、しかもその息子に猫を飼ってほしいと頼まれ、それを受け入れるだなんて。条件だなんて理由まで付けて、傍に置こうとするなんて。まるで見当違い、ただの思い過ごしかもしれないのに、手を差し伸べるだなんて。

そこに見え隠れする自分の本音には、今はまだ。
気付かないフリをしていたい。

オレと子猫と、コイツと。
今まで1人だったスペースが満たされていく。
そして少しずつ、オレのペースは乱されていく。

まぁそれも悪くないか、と苦笑しながら独りごちてから。
未だ夢の中にいる彼の肩に、手にしていたジャケットを掛けた。


またまたついったで滾らせていただいたネタからうまれた産物。素敵絵をくださった方への捧げものでもあります。捧げもののくせに俺得でしかない内容。とある曲を元ネタにしてます。詳しくはmemoをご参照ください。坂田弁護士も土方くんもお互いに心のどこかで愛を乞い、乞われてたらいいなと。読んでくださってありがとうございました!
2011/12/09

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