パイロット銀土パロ(2) | ナノ

:: パイロット銀土パロ-2

■Gintama Airways(GTM) 1010便 2:50pm 北京発 7:15pm 成田着予定
−−−鳥取上空, 5:35pm Sunday

 折り返し便も定刻に出発し、順調に行けば成田到着まであと2時間弱のところまで来ていた。
 
「土方くん、燃料はどうなってる?」
「予定どおりで、問題ありません。あ、あの右奥に見えるの、雷雲...?」
「この季節は天候が変わりやすいからなー。遠いけど油断すんなよ」

−−−駿河湾上空, 6:45pm Sunday

「あ、おい。管制から連絡入ってるぞ」
<...GTM Airways 1010, go ahead.......了解しました。ありがとうございます。>

「キャプテン、成田周辺・羽田周辺共に濃い霧に覆われてるそうです。現在20機ほど上空で待機中です」
「20機か...予想以上だなー」
「どうしますか」
「しばらく旋回して様子を見よう」
「はい、キャビンに伝えます」

−−−成田上空, 8:00pm Sunday

「視程はどう?」
「視程300mです。これじゃあほとんど見えないですね...。あ、今またちょうど1機、ゴーアラウンドしたって管制が...」
「しゃあねーな。もう一度カンパニーと連絡を取って、関空への着陸を申請して」
「関空ですか?」
「成田、羽田がダメなら関空へ降りるのが通常だろーが。コーパイくんはそんなこともわかんねーの?」
「...............」

〈GTM Narita station, こちらGTM Airways 1010. 関空へのダイバートを要請します。...はい、よろしくお願いします。〉

−−−成田上空, 8:05pm Sunday

《GTM Airways 1010. 四国上空にあった雷雲が関空上空に急激にはり出してきています。関空はNot Recommendです。》
〈了解しました〉

「関空は無理みたいです」
「なら、北上だな」
「北上?」
「現時点で一番安全に降りられるのは北海道だ。新千歳に向かう」
「はい。え、でも新千歳に降りたら成田に戻るのは明日の朝の振替便になりますよね?」
「それが何?」
「いや、...」
「今の天候じゃ、成田には降りられない」
「もう少し粘れないですか?ひょっとしたら霧だって晴れるかもしれないし。そういう可能性だってあると思うんですが」
「......キャプテンの決定だっつの」

 そういうとあごをしゃくって管制と連絡を取るように促された。

〈Narita approach, GTM Airways 1010 Destination Change to Chitose, Request Clearance.(成田の入域管制担当者、GTMエアウェイズ 1010便は目的地を新千歳空港に変更します。承認をお願いします。)〉

「オレ、アナウンスするからちょっと頼むわ」
「ラジャー。I have.」
「You have.」

『機長の坂田です。お客様に申し上げます。当機、成田着陸に向けて上空待機しておりましたが、濃霧の晴れる見込みがないため新千歳空港に向かいます。お急ぎのところご迷惑をお掛けして申し訳ございません』

 そのアナウンスから5分も経たない頃、ブザーがコックピットに鳴り響く。キャビンからの緊急呼び出し音だった。

『キャプテン、20代くらいの男性が騒いでいます。機長を出せと要求し、長谷川チーフに暴行を働きました...』

 もう一人のチーフパーサーである志村の声の後ろから若い男性の喚き声が漏れ聞こえる。

(もう早く降ろしてくれよ!早く病院行かなくちゃなんねーんだ、兄貴が危ないんだよ!!会いに行くって約束したんだよ!!今から新千歳行ったら振替便は明日なんだろ?そんなの待ってらんねー!!たった一人の家族なんだ...死に目に会えなかったらどうしてくれんだよ!!お前ら責任取れんのか!!)

 パイロットは操縦中にコックピットから出られない。もちろん乗客もコックピットには入れない。キャプテンも俺も、乗客を不安にさせないよう逐一アナウンスは入れてきたし、これ以上こちらで出来ることはない。俺達の仕事は乗客を安全に目的地へ送り届けること。そして、安全が第一。
 最終的に、キャビンで起きた事態はキャビンで解決してもらうしかないのだ。それに、このシップに乗ってるクルーはそれができるメンバーだということも頭では分かっている。信頼も、している。

 それでも、俺は。
 これが最善最良の選択だったのか、自問し続けていた。

−−−山形上空, 9:15pm Sunday

「......キャプテン」
「なに?」
「今からもう一度だけ成田に引き返すことってできないですか?」
「バカ。今成田に戻ってもそのまま着陸できる見込みなんてねーだろ」
「いや、でも...」
「感情に流されんな。たった一人の為にリスクを背負って飛ぶことはできねぇ」
「たった一人じゃない。乗客はみんな成田に引き返したいって思ってるはずだし、乗客を安全に目的地まで送り届けるのが自分達の仕事だったら、もう少し粘ってもいいと...俺は、思います」
「この燃料でいつまでも成田上空を旋回して、万が一燃料切れになったらどうすんだよ。300人の命が奪われるんだぞ」
「見ての通りまだ燃料はあります。せめて30分、粘らせてください。リスクはないはずですから」


「......言いたいことはそれだけ?コーパイくん」


「俺はただ、乗客の為にもっとベストを尽くすべきだと思うからそう提案してるだけです。確かに安全は第一です。...だけど、安全だからこれでいいだろうっていう仕事はしたくありません。ギリギリまで、俺は諦めたくない」



「......だれが諦めるっつったよ」



「え?」
「オレは諦めるなんて一言も言ってねーし」
「どういうことですか?」
「OCCに燃料10万を要請しろ」
「...燃料10万?」
「この便は一旦新千歳に着陸、燃料を補給してもう一回成田へ向かう。...10万ポンドの燃料で上空待機できる時間は?」
「...約4時間です」
「さっき関空が雷雲に襲われているっつったよな」
「はい」
「霧は雷雲に吹き飛ばされて必ず一度雲の切れ間を見せる。南岸に発生した雷雲が成田に迫るのは、現在の気流から見ておよそ2〜3時間後。新千歳で燃料を積み込んで成田に向かえば、ちょうどその切れ間を狙ってランディングできる」



「いい?土方くん。ギリギリまで粘るには、まず判断力が必要なんだよ。返事は?」


「...はい。あ、ラジャー!」



〈GTM Airways Operation Center, こちらGTM airways 1010. 千歳に着陸後、燃料10万で成田にもう一度トライします。フライトプランお願いします〉

「土方くん、アナウンスお願いね」

 そう言って先を見つめるキャプテンの横顔は、悔しいけれど頼もしくて。
 そして、地上より遥かに近い場所から差し込んでくる月の光にその銀色の髪が反射して、夜の闇に浮かび上がるそれがあまりにもキレイすぎて。
 不覚にも一瞬、見惚れてしまった。

『お客様にご案内いたします。副操縦士の土方です。当機は一旦新千歳空港に着陸後、給油を行いまして再び成田空港に向けて離陸します。お客様には長時間にわたってのご搭乗、まことにご迷惑をおかけしておりますが何卒ご理解くださいますようお願い申し上げます』

−−−新千歳空港, 10:45pm Sunday

「再出発まであと何分だって?」
「確認します...」

 無線でグラウンドスタッフと連絡を取ると、まだあと30分程かかるとの返答が。
「あー、あと30分くらいかかるそうです」
「遅ぇよ。確実な雲の切れ間は30分しかないんだ。出来るだけ早く離陸してぇ。急がせて」
「はい」
〈あ。たびたびすみません、コックピットですが。燃料以外はもう大丈夫ですよね?作業のスピードアップ、お願いします。...〉

 そして15分後、俺達は再び成田に向けて出発した。

−−−茨城県鹿島灘上空, 11:55pm Sunday

〈こちらGTM Airline 505, 成田上空の現状はいかがでしょうか?〉
《霧はまだ濃いです。西からの雷雲との隙間はごくわずか。狙えるのは一瞬かと思われます》
「...了解しました」

 もしかしてまた...そんな考えが頭を過る。
 同じ内容の無線を聞いていたはずの隣に座るキャプテンは、一つも顔色を変えず前を見据えたまま。

「ベルト着用サイン出します」
「ラジャー。あ、さっき言い忘れてたんだけどさ、ギリギリまで粘るにはキャプテンとコーパイのコンビネーションが必要なんだよ。高度なランディングだけど息合わせてやろーぜ」
「...はい。ですが、キャプテン、現在の視程100Mだそうです。これ、さっきより悪化してる...。これでまた千歳に戻るなんて言ったら乗客がなんて言うか...」
「落ち着けよ。晴れ間は必ず出るっつーの」

 機体は着陸態勢に入り高度を下げていくが、前面に広がるのは白い靄のみ。
 手にしているグローブが汗ばんでいくのを感じる。ゴーアラウンドか、新千歳に戻るか...着陸か。

《GTM Airways 1010, now visibility 800 meters. Cleared for approach.(GTMエアウェイズ 1010便、現在の視程800メートル。着陸を許可します。)》
〈Cleared for approach.(着陸許可、了解しました。)〉

「行きますか?」
「よし、今しかねーな。行くぞ!」
「ラジャー」
「アプローチプッシュ、ギアダウン」
「ギアダウン」

 機体の高度は500メートルを切ろうとしているが、滑走路の灯りが見えてこない。
 必死になって、それらしきものを目で追う。

「あ、み...見えた!!アプローチライト、インサイト」
「ラジャー」
「アプローチングミニマム」
「チェック」

 キャプテンがエンジンレバーをゆっくりと引き、エンジンを弱めスピードを落としていく。

「...ミニマム」
「ランディング」

 続いて操縦桿が少しずつ引き上げられ、機体の頭も上がっていくと、後輪に続いて前輪のタイヤが滑走路に着地する。エンジンを逆噴射しスピードを弱め、ブレーキをかけると機体は徐々にその動きを止めていった。
 
 そのまま管制の指示に従いゲートに機体を停めて乗客を降ろす。
 細く長い息を吐ききると、ようやく肩から力が抜けていった。

 認めたくなかったけど、実は行きの便で最初の離陸の時から思ってたけど、コイツの離着陸技術は半端なく高いということを目の当たりにした。それに加えてあの豊富な知識。トラブル時における冷静な判断は、それらがなければ到底はじき出されるものではない。
 ...さすが、早くに機長へ昇格しただけのことはある。
 もしかしたら本当にコイツはすごいヤツなのかもしれない。

「今日はすみませんでした」
「んぁ?何が??」
「いや...生意気なこと言って。ギリギリまで諦めたくないっつったのは俺だけど、一番諦めてなかったの坂田さんでした」
「土方くん、...」
「はい?」
「いま何時よ?」
「一時半です。って...一時半んんん??」
「長かったなー。お疲れさん。明日乗務ある?」
「いや、明日から2日間オフですけど」
「もうさ、パーッと飲みに行こーぜ。......土方くんのおごりで」
「ってなんでだァあああああ!!......まぁ坂田さんがどうしてもって言うならいいですけど」
「え?なに土方くんってツンデレなの??あ、いやコレはツンデレじゃない...のか?うーん......」
「...............ごにょごにょうっさいな、天パ」
「おい、いま天パっつったな!違うんですぅーこれはナチュラルパーマなんですぅー!!」
「だから、それって天然パーマってことですよね?」
「あ!また言ったなテメー!!」

 グローブの外されたその手が、俺の手首をぎゅうっと掴んできた。

「今夜は覚悟しといてね?土方くん」

 コイツの手が熱いのか、それとも。

「...行くんならとっとと行きますよ。坂田キャプテン」
「土方くん耳真っ赤なんですけどォー!!」

 コイツがスゴイ人なのかもと思った俺がバカだった。
 俺はやっぱり、コイツが、嫌いだ。



長谷川マダオチーフごめん!長谷川さん大好きです!!銀さんは前から土方くんに目を付けてたらいいなー。あ、最初に一目惚れでもいいな。とにもかくにも俺得すぎるパロ、お粗末様でしたーm(_ _)m
2011/11/27

back][top

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -