:: 銀土パイロットパロ-1 ■Gintama Airways(GTM) 505便 5:25pm 成田発 8:30pm 北京着予定 −−−成田, 3:40pm Saturday 「あ、土方さん、おはようございます!今日の土方さんのフライト、キャプテンはあの坂田さんなんですね」 「あ?あぁ、そうみたいだな」 「あの若さで機長なんてすごいですよねー。訓練もものすごい優秀な成績でパスしたって話なのに、全然気取ってないんですよあの人。だから、CAからも人気あるらしいですよ?」 ディスパッチャーである山崎は大学の後輩で、部活も一緒だった。言わば腐れ縁みたいなヤツだ。 「へぇー...」 ブリーフィングを前に、最新の気象・航空情報を頭に入れておかねばならない。目の前の書類をペラペラと捲りながら山崎の話を受け流す。 「土方さんって昔っからそういうの興味ないですよねー」 「うっせーぞコラ」 「おはよーっす」 山崎をドスの聞いた声で制した直後、背後から聞こえたのはやる気があるとは到底思えない声。 振り向くとそこには白...いや、銀色の髪をし、しかもその毛先をあちこちに散らばせて、死んだ魚のような目をした男が立っていた。でもそのパイロットスーツの袖口には線が4本。もしかして、コイツ...キャプテンなのか? 「あ、おはようございます、坂田さん」 「ジミーくんおはよー」 「だからオレ山崎なんですけど!それはもしかして地味からきてるんですか?そうなんですか!?」 「そろそろ時間だろ。ブリーフィングしよーぜ」 「だから人の話ィいいいい!!!」 「坂田キャプテン、おはようございます。副操縦士の土方です。今日のフライト、よろしくお願いします」 一応挨拶をしておかねば、と軽く頭を下げるとキャプテンはちらりとこちらを一瞥し、「ほーい」と気の抜けた声を返してきた。 「そりゃ地味っちゃあ地味ですけど、地味は地味なりに...」 「ブツブツうっせーぞ、山崎」 「......では、ブリーフィング始めさせていただきます。本日の北京行き505便ですが、フライトプランはこちらになります。今日の天候は...」 この10分程度のブリーフィングにフライトに必要な情報が集約されている。俺は山崎の声に集中しながらも、このキャプテンとのフライトに一抹の不安を感じた。 「...以上になりますが、何かご質問等はありますか?」 「いや、特にねーわ。ジミー君優秀だからね、フライトプランもこれでオッケー」 「坂田キャプテンはいっつもそれしか言わないじゃないですかっ!!」 「じゃあ、多串くん。ちょっと休憩したらシップに行くよ?」 「...はい。それと俺、多串じゃなくて土方です」 「あ、やっべー。いちご牛乳持ってくんの忘れたァあああああ!!」 (って人の話聞けやコラァあああああああああああ!!!!) 自分のイヤな予感が、当たりそうな気が、した。 −−−新潟上空, 6:15pm Saturday 定刻通りに成田を出発し、機体が安定したところでキャプテンの指示により自動操縦へ切り替える。 「よし、じゃあアナウンスすっから操縦頼むわ」 「ラジャー。I have.」 「You have.」 『ご搭乗の皆様、こんにちは。本日はギンタマ エアウェイズ 505便、北京首都国際空港行きをご利用くださいまして誠にありがとうございます。機長の坂田でございます。当機は現在33000フィート.........それでは皆さま快適な空の旅をお楽しみください』 ...至極まともだ。 どうやらアナウンスはしっかりやれるようで、少し安心する。まぁ普通の機長ならこんな心配をする必要もないのだが。少しだけ緊張と警戒を解いて、計器のチェックと外の監視を続ける。すると、キャプテンがこちらを横目で見遣ったのが分かった。 その顔には、不敵な笑みを浮かべて。 『Good Afternoon, Ladies and Gentlemen. Welcome aboard Gintama Airways, flight 505 to Beijing Capital International Airport. This is your captain speaking, Gintoki Sakata....』 ...ヤバい。コイツめちゃくちゃ発音いい。ネイティブレベルだ。アメリカでの訓練で英語の発音に人一倍苦労した俺とは大違い。いや、違いすぎる。 それが何故だか、無性に、腹立たしかった。 『Thank you for flying with Gintama Airways. Enjoy your flight.』 「ねぇねぇ、多串くんってば俺のアナウンス聞き惚れちゃったでしょ?」 「誰が何にですか?それと、俺の名前は土方です」 「オレのアナウンス、結構好評なんだよねー。CAさんとかさ、『坂田キャプテン今日もアナウンスかっこ良かったですぅー』とか言ってさ...」 「すいません、もうアナウンス終わったんですよね?」 「はいはい、わかりましたよ交代ね。I have.」 「You have.」 「それにしても、なんか今日は高飛車な女だなーおい」 「...少しは黙っていられないんですか」 「空のことだよ、空」 「あぁ...訓練中に散々聞かされましたけど」 「だろ?空ってのは見た目と中身は全然違うし、気分ころころ変えやがるところが女そっくりってな」 「...はい」 「土方くんはその辺どうなの?女の扱い...あんま上手じゃなさそうだけど??」 ニヤニヤしながらこちらを見るキャプテン。 そこで自覚した。 俺、コイツのこと、嫌いだ。 「...まだコーパイになって3ヶ月なんで」 「額に青筋立ってるぅー。ぷくく」 「.........死ね」 「こわっ。でも土方くんさー、他のキャプテンからの評判悪いよ?」 「えっ...なんでですか」 「コーパイくんの一番の仕事ってなんだか知ってる?」 「いや、お客様を目的地まで安全に届けられるよう...」 「違う違う、そういう真面目な話じゃなくてさ。ステイ先の食事にCAさんを誘うのがコーパイくんの一番の仕事でしょーが!!」 「あ、自分そういうの興味ないし嫌いなんで」 「真面目すぎんだろ...そんなに肩肘張ってて疲れない?」 「いや、全然」 「あっそーですか...」 −−−北京, 11:50pm Saturday なんか今日はものすごく疲れた気がする。北京までは4時間ほどのフライトで、他の国際線と比べても短い方なのに。 ...絶対あのクソ天パ機長のせいだ。 結局ヤツは嫌がる俺を引きずって、飯に連れて行った。CA達と行けばいいと突っぱねても「気取ったお店とか性に合わねーし、もう遅いし、明日もフライトだから酒も飲めねーし、男同士さっさと食ってホテルで寝ようぜ」の一点張りで。 ただ、ヤツの選んだ店は外見や内装は決してキレイとは言い難かったが、味は確かに美味かった。 「あの、土方くん?そのマヨなんなの??いくらエビマヨがメニューになかったからってさァ...」 「坂田さんこそ、なんでいきなりデザート3品も頼んでるんすか」 「オレ糖分取んないと死んじゃうから」 「..................」 「はいそこ!無視しないィいいいいいい!!」 「黙って食べてくださいよ」 「...はい。つかさ、やっぱり土方くんって面白いね」 「おもし、ろ...い?」 「うん、すっごく。それに...可愛い」 「かっ...か、わ......いい?俺、男なんすけど」 その時の、アイツの俺を見る眼差しは、死んだ魚のようなそれじゃなくて。 なんとなく、誕生日プレゼントをもらった時の子供のようで、キラキラしていて。 俺はアイツといると何故か、調子が、狂う。 なんかほんと、銀土未満っていうか未満も未満すぎてすいません。完全に俺得すぎてほんとすいません。次で終わります。 2011/11/27 →next [back][top] |