銀誕2011-2 | ナノ

:: 銀誕2011 - 2

「え...マジで?いいの??」

 告白にOKの返事をした俺を見返す金時の顔を、俺は一生忘れないだろう。驚きと、困惑と、喜びの混じった顔。

「何度も言わせんな」

 そっけなく返した俺をヤツは力一杯抱きしめてきた。少し痛いくらいでものすごく息苦しかったけど、伝わる体温が温かくて、それが酷く嬉しくて。

 ただ、その後コイツが口にした科白には閉口したが。

「よし、じゃあお店は辞めようね。オレ独占欲強いし、夜のバイトとか危ないからさせたくないんだよね。あ、オレは土方くん以外に一切興味ないから浮気とかもしないし心配いらないから。それと、土方くんは今一人暮らしだよね?じゃあ家賃もったいないからウチで一緒に暮らそ??学費とか生活費は心配しなくてもいいよ。オレ金は腐るほど持ってるし。何なら親御さんにも挨拶に行くけど」

「いや、俺の親は2人とももうとっくに亡くなってる。それにしても......それはさすがに...申し訳ねぇよ。一緒に住むとかも、そんなに簡単に決める話でもねーだろ。万が一上手くいかなかった時のリスクがでかすぎる」

「そっ、か...。俺も親、いないんだよね。あ、一緒に住むのは土方くんとなら大丈夫。つかもう絶対に離さねェし。だから、覚悟しといて、ね?」

 あのキラキラした瞳で、またも自信たっぷりに、まじろぎもせず見つめられながらそう言われると、俺はもう何も言い返せなかった。
 翌日、店を辞めたいと志村に伝えると「なんとなくイヤな予感はしてたんです」と苦笑いをしながらも了承してくれた。学費は申請していた奨学金の審査が通ったのでそれで賄うことにし、家賃代わりに家事全般をすることと授業のない時間帯(もちろん夜働くのは即却下されたので昼〜夕方)にバイトをすることを条件に俺は金時の家で暮らし始めることになった。

 ーー今思い返すと全てがアイツの思い通りになって軽く腹が立つくらいだ。でも、アイツが与えてくれたこの場所は日溜まりのように暖かいから、それくらいは許してやろうと思えてしまう。
 だって、「ただいま」って言ったら「おかえり」って言ってくれる人がいること。美味しいものを一緒に食べて「美味しいな」って言い合える人がいること。楽しいことがあれば共に笑って、ツライことがあれば一緒に乗り越えようとしてくれる人がいること。自分の誕生日を祝ってくれる人がいること。(ただし、今年の俺の誕生日にはこれでもかってくらいの豪華なデートコースが用意されていて軽く引いた。金時は「ごめん、オレ普通の誕生日ってどうやって祝ったらいいのかよく分かんねーからこんなやり方しかできなかった」って少ししょげてたから、来年は絶対に事前に相談しろと釘を刺しておいた。)
 それらを教えてくれたのは、経験させてくれたのは、全部金時だったから。


+++
 そして迎えた誕生日当日。
 朝日が昇ってから大分時間が経ってから家に帰ってきて、倒れるようにベッドで眠った金時が起きてきたのは日が沈む少し前のことだった。俺はヤツが寝ている間に頼んでいたケーキを受け取りに行き、ヤツの好きなメニューを揃えた夕食を準備していた。

「おはよー。すっげーいい匂いがするんですけどォー」
「おう、おはよう。それと、遅くなったけど誕生日おめでとう」

 そう言うと金時は少し惚けた後、さっと目元を赤らめてリビングに立ち尽くしている。

「な、なんだよ...」
「いや、やっぱり好きな子に言われるのって破壊力がすげーなって思って......」

 大の男2人が顔を赤くしてリビングに突っ立ったまんまの図って傍から見たらさぞおかしいんだろうなと頭の片隅でどこか他人事のように思う。

「よし、シャワー浴びてくる。風呂から出たらケーキ食べたいな。あ、イチゴ牛乳と一緒に!」

 リビングを出る金時を見送った後、冷蔵庫に仕舞っておいたケーキを皿に移し、大きいロウソクを2本、小さいロウソクを5本立てながら、俺はジーンズの後ろポケットに入れたままのカードのことを考えていた。喜んでくれればただそれだけでいいんだ、と。

 風呂から出てリビングに戻ってきた金時は普段の部屋着より少しオシャレな格好をしていた。

「普段のジャージでいいのに。どうせ外出ねぇんだし」
「いいの!今日は誕生日だからオシャレするんですぅー!!」

 そう言いながら金時はリビングにあるソファーに腰を下ろし、声には出さないが(ケーキまだ?)という顔をしてソワソワしながらこちらの様子を伺っている。

「ちょっと待ってろ。今持ってくから」

 そろそろ陽が落ちる頃だけどまだ部屋の電気は点けていないのでちょうど良いはずだ。俺はロウソクに火を灯し、ソファーの前にあるローテーブルにケーキを運んだ。

「うっわー。すごいすごい!!『Happy Birthday 金時』って書いてある!!」
「早く消せよ」
「え......Happy Birthday 歌ってくんねーの?」
「...えっ.........」
「......わかった、一緒に歌お?」

 こんなことするのは中学校の時以来だろうか。恥ずかしすぎて顔から火が出るかと思ったが、金時が心から楽しそうに歌うから俺も小さな声でだけど、ちゃんと歌った。歌が終わり、金時がふぅーっとロウソクを一気に消す。

 部屋が一気に暗くなったので、リモコンでリビングとキッチンの電気を点した。
 明るくなった部屋で見る金時の顔は満足そうでもあるが、今度は(手紙、まだ?)の顔をしている。

「...よし、ケーキ切るか」
「いや、その前にアレ、欲しいんですけど」

 そう言って金時はもう一度自分の隣に座るようソファーをポンポンと叩いて俺を促す。今渡しても、後で渡しても目の前で読まれるであろうことはわかっていたので、俺は観念して朝からずっとそこに入れっぱなしで温くなった封筒をポケットから出して手渡した。

「ありがと。読ませてもらうね?」

 大切そうにそれを受け取り、中のカードを取り出す。表にはシンプルに金色の文字で『Happy Birthday』と書いてあるそれを。
 金時がカードに目を落としてる間、広いこの部屋に静寂が訪れる。俺の鼓動の音すら隣にいるコイツに聞かれちまうんじゃないかというほどに静かで、でも俺はとてつもなく緊張していて。酷く長い時間に思えた。
 しばらくすると金時がカードを閉じ、封筒に戻した後で微かに息を吐き出した。それはため息とも受け取れたから、急に不安でたまらない気持ちになって俯いてしまう。

 ーーが、いきなり金時に抱き寄せられた。それはもう本当に、きつく。

「く...くるし.........」
「何コレ、すっげーヤバい。嬉しい。嬉しすぎてどうにかなりそう」

 俺を抱きしめながら耳元で囁く金時の声は微かに震えていて。俺には上手い返事が思い浮かばなかったから、黙ってヤツの背中に手を回した。

「ラブレターくれっつったからさ、好きだとか愛してるって書かれてたらいいなとかバカなこと考えてたけど。この方がずっとお前らしいし、グッときた」

 それからもう一度だけぎゅうっと力強く抱きしめられる。
 そして、今度はふぅーっと長い息を吐き、金時は俺をその腕の中から解放した。そっと覗き見たヤツの顔は、俺が初めて告白にOKの返事をした時のそれに似ている気がした。
 とにかく喜んでくれたみたいで良かった、とホッとしていると「よしっ。じゃあちょっと待っててね」と金時は席を立って寝室の方へと向かい、再びリビングに戻ってきた時には小さな包みを手にしている。

「開けてみて?」

 金色のリボンで包まれたそれを丁寧に解き、包装紙の中から現れた小箱を開けてみる。
 中にはシンプルな銀色の指輪が2つ並んで輝いていた。

「ゴールドにするか散々迷ったんだけどさ、十四郎くんの歳だと金とかしづらいかなーって。金とプラチナのコンビも悪くなかったんだけど、とりあえずプラチナにしてみた。お互いコンビとかゴールドが似合う歳になったらまたお揃いで買おうね?ほら、10周年とか20周年とかさ、これからイベントはいろいろあるじゃん??」

 金時の口からは淀みなく言葉が発せられるのに、俺は手の中にあるものの意味が未だに理解できなくてそれから目が離せずにいた。

「な、......なんだよ、これ...」
「え?結婚指輪だけど」
「け、...けっ......こ、...ん.........?」
「そだよ。だって十四郎くんがプロポーズしてくれたじゃん。この手紙で」
「え、...いや.........。つか俺、物はなんも用意してねーし」
「いいのいいの。オレ元々、十四郎くんのこれからの人生丸ごとちょーだいって言うつもりだったし。それがオレにとって一番嬉しいプレゼントだよ。それとも、イヤだった?指輪、気に入らない??」

 ブンブンと頭を振ると、「良かったぁー」と心底安堵した声が帰ってくる。

「実は十四郎くんが寝てる間にこっそりサイズ測ったんだよね。2人のイニシャルも入れてあるんだ。はい、じゃあ左手出して?」

 恐る恐る差し出すと金時の暖かい手が包んでくれて、自分の指先がいつの間にか酷く冷えきっていたことに気付かされる。
 金時はゆっくりとその銀色の指輪を俺の薬指に填め、その上に柔らかく口付けてくれた。

「十四郎くんも、してくれる?」

 こくんと頷いたものの、指先が震えて上手くいかない。

「ゆっくりでいいよ。ちょっと指先グッパーグッパってやってみ?」

 言われた通りに指を動かしたら少しはましになったので、指輪を手に取ってゆっくりと金時の左手薬指に填めていく。俺の指にあるそれと同じようにそれはぴったりと収まり、輝いている。俺はその光に吸い込まれるように、唇を寄せた。


「じゃあ、誓いのキスしよ。十四郎、愛してるよ」

「...うん、俺も......愛して、っん」


 最後の“る”の音を吸い込むかのように、金時が噛み付くように口付けてきた。
 そして少し唇が離れたと思ったら、次は触れるだけの優しいキス。
 こんな誓いのキスも、俺達らしいのかもしれない。
 次はどんなキスが降りてくるんだろう、そう思いながら俺はまた瞼を閉じた。



『金時へ
 誕生日おめでとう。もう25になったんだから自分で炊事洗濯できるようにしろ。
 それから、脱いだものはちゃんと洗濯かごに入れろ。
 いっつも脱ぎっぱなしにしてある下着や靴下を拾う俺の身にもなれ。
 ...これ以上は小言ばっかりになりそうだからやめとく。

 金時、一緒にいてくれてありがとう。
 これからもずっとお前の誕生日を祝えたら、俺も嬉しい。
 誕生日、おめでとう。
 土方 十四郎』




あとがき
銀さんも金さんも先生も弁護士も虎さんも坂田くんもみんなみんなハピバ!!!!

2011/10/10

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