awkward love(1) | ナノ

:: awkward love - 1

「土方さん、ご指名はいつものようにパー子でよろしいですか?」
「あぁ、構わねぇ」

 この『かまっ娘倶楽部』が攘夷浪士の密談場所に使われているとのタレコミを受け、客を装ってこの店に来るようになってから2週間。こういった仕事は本来監察方がすることで、いつもであれば山崎に任せていたところだが、奴は別件で屯所を離れ張り込みに従事している為に俺がこの役目をすることになった。

「お待たせしましたぁー。ご指名ありがとうございまぁーっす。パー子でーす!」
「うっせー、死ね」
「オレだって言いたかねーけど、言わねーと怒られんだよ。多串くん、焼酎でいい?」
「おう」

 初めは気が進まなかった。俺はキャバクラの類が苦手だ。見ず知らずの人間とにこやかに世間話するくらいなら、一人屋台で飲んでた方がずっとましだと今でも思ってる。時たま近藤さんに誘われて『すまいる』へ連れていかれるが、俺の隣に座るホステスは俺が「あぁ」とか「へぇ」とか気のない相槌しか返さないから、10分もすれば大概困った顔をして無言になっちまう。近藤さんには悪いが、そんな時間を過ごすなら屯所で溜まってる書類を片付けたいくらいなのだ。
 それでもほぼ毎日のようにここへ来ているのはもちろん仕事という理由もあるけれど、もう一つ。この男がいるからなんだろう。

 そう、俺はこの男に惚れている。

+++

 店に入ってあの銀髪を目にした時は本当に驚いた。髪を結っていたし、多少化粧もしていたようだったが、まぎれもなくそれは万事屋だった。店に入るなりアイツを食い入るように見つめる俺にボーイが「あの子はパー子ちゃんって言って、今だけ助っ人で来てくれてるんですよ。ちょうど今は空いてるみたいなんで、後で席におつけしますね。さ、お席はこちらでございます」と俺の返事も聞かず揉み手をし、愛想笑いを浮かべて先を歩く。

 席について辺りをさりげなく見渡し、どうやらそれらしき男達が来ていないのを確認してからとりあえず一服するかとタバコに火をつけようとしたところで、アイツは俺の席にやってきた。

「どーもー初めましてパー子でーす。宜しくお願いしまぁーす.........ってちょ!多串くんんんん!?」
「誰が多串だコラ。いいから早く座れや」
「真選組鬼の副長がまさかねぇ......オカマが好きだったとはパー子知らなかったわー」
「しっ!!テメーちょっと黙ってろ。それにそのパー子って何なんだよ、ふざけんのも大概にしろ」
「黙ってたら仕事にならないんですぅー。パーは天然パーマのパーなんですぅー」
「...まぁいい。とりあえず俺の仕事について、ここでは今後一切口にすんじゃねーぞ。他の従業員にも誰にもだ。呼び方もここでは多串で通せ。完全にプライベートで来てるんだからな」
「............ふーん。ま、いいけどぉ?」
「それにしても酷ぇな、そのナリ。もしかしてオメーこそそっちの趣味があったのか?」
「ちげーよ!!家賃払えなくて大家のババァに強制的に働かされてるだけだよコノヤロー」
「何威張ってんだよ、このマダオが」

 ぱらぱらと店内に入ってくる客に目を光らせながら、それでも俺はヤツとの会話を楽しんだ。変な世辞もいわねぇし、もちろんご機嫌取りもしてこないヤツとの会話はさほど不愉快でも退屈なものでもなく、時間はあっという間に過ぎていった。
 近藤さんの仇を取ると屋根の上で決闘を申し込み、見事なまでに敗れたあの日以来、万事屋のことは心のどこかでずっと気になっていた。だけどいつの頃からからだろう。見廻りに出る度に、非番で街をぶらつく度に、あの銀髪を目で探すようになったのは。俺のことを『多串くん』と呼び、街で会えば必ずと言っていいほど口喧嘩を吹っかけてくる。飲み屋でも、茶屋でも、定食屋でも。その上、いつの間にかちゃっかり会計を一緒にされていて、何故かいつも奢らされるハメになっていた。

 もしかしたらこうやって普通に話すのは初めてかもしれねーな、とふと思い、気が重かったこの仕事に少しやる気が出てきたのを憶えている。

+++

「ねぇ、多串くん。...っておい、聞いてんの?」
「......悪ぃ。なんだ?」
「明後日なんだけどさ、店来る?」
「あぁ、そのつもりだが」
「じゃあさ、同伴してくんね?」
「同伴?おめーただの助っ人なんじゃなかったのかよ」
「いやなんかイベントやるらしくて、全員同伴だってうるさくてよー。助っ人でもルールはルールだとか言いやがるし。それに周りもオメーが指名してくれてんの知ってっから、多串くんに頼めってさ。いつも来る時間くらいに外で待ち合わせて店来るだけでいいから!このとおりっ!!」

 顔の前で手を合わせ、上目遣いで俺をみるコイツ。...ちょっと可愛いなんて思う俺は相当頭がイカレてんのかもしれねーな。

「待ち合わせて店来るだけだぞ」
「っしゃ!ありがと多串くぅーん!!」
「近寄んじゃねー、このボケ!!」

 俺は胸の鼓動が万事屋に聞こえちまうんじゃねーかと気が気じゃなかった。



パー子かわいいんで大好きです。まぁみんな好きなんですが。そしてこれちゃんと銀土ですからね!男前受け好きすぎて困ります。あと1話か2話くらい続きます。
2011/09/22

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