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 彼等は滅亡した星と静かな棺の森で二度、己の一部を置き忘れてきたことを忘却している。おそらく忘却した事実、そして何を失ったのかさえ記憶に残っていないのだろう。
 人は何かを失えば、等しく何かを手に入れる。まるで月の満ち欠けのように、一律の流れをひたすら繰り返す。その均衡が保てなくなると自分の所有物を把握できなくなってしまう。その盲目状態の中で、私はふいに思い出してしまった。視界が開けて、何が起きているのかを冷静に見つめてしまった。その瞬間、私の大切な物はすでに欠けていたのだと悟った。


 永遠に冷たいままコールドスリープ装置の中に眠る同胞を見て、私達は咽び、怨み、失われた星と過去を遠く愛し、多くの死を弔った。一七三名の死で満たされた空間はひどく冷えていたような気がするが、記憶が曖昧であまり覚えていない。
 私は呼吸をする度、呼吸器官にのし掛かる命の重圧に己の無力さを感じた。同時に、生き残れてよかったという安堵の罪に苛まれた。私が口を開き微笑む度、愛しい人を視界に捉える度、消失した同胞の幸福と未来を私一人が独占している気がしてならなかった。このようなことを気にしている時点でどこかおかしかったのかもしれない。他の者は目覚めてすぐ生き残った者の少なさに絶望し、復讐心を燃やしていた。そこで私はこの状況を客観的に見ている自分自身のことを知った。
 私の心は、イクサルと共に消失したのだ。
 他の者も大きく人格が変わり、ユミルに関してはショックで記憶を失ったりと、過去の様子からは想像がつかない人物と化した。ただ一人、オズロック様だけは、何一つ変わらない強い表情で現実を受け入れていたように思う。オズロック様の勇ましい姿は絶望に濡れた戦士たちを奮起させた。
「イクサルの悲願を果たそうではないか」
 その言葉で皆が息を吹き返し、瞳に力強い意志を灯した。もちろん私もその中の一人だ。しかし私には奇妙な違和感があった。
 故郷と多くの同胞を失った悲しみ、それらを奪ったファラム・オービアスへの憎しみを有しているはずの私が、イクサルの悲願とは何であったかを思い出せなかったのだ。その時の私には、イクサルの悲願という言葉がオズロック様の悲願に見えていた。
 私は黒い森の中でただ一人、イクサルを見失った民であった。





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