この世界に来たのはいつ頃だったか。その時の記憶はあやふやで、私はほとんど覚えてはいなかった。ぽかんと心の何処かに忘れてきたそれは懐かしさとちょっぴりの切なさとを混ぜ合わせてなんとも言えない気持ちにさせる。

私はギシギシと軋む建てつけの悪い錆びたベッドの上から降りて、立ったまま目を閉じ神経を集中させていた。キィキィと金属を引きずるような嫌な音が遠くの方から段々と近づいてくる。私はこの音が好きだ。いや、この音というよりはこの音を出している彼が大好きだ。

部屋の前で音が止まった。私はそれを合図に重い鉄の扉を勢いよく開けた。

「三角さん!」
ガッ、と何かにぶつかる音がした。目の前に三角さんはいない。何事かと周りを見渡せば先ほど勢いよく開けた扉と壁との間に挟まるように三角さんの頭の先が覗いていた。私は青ざめてすぐに扉を引っ張り挟まっていた三角さんを救出した。助けた三角さんは少しふらついていて、すごく申し訳ない気分になる。

「ごめんなさい…!三角さん大丈夫?ほんとごめん、今度からちゃんと注意して開けます…」

そう頭を下げれば、三角さんは鉈を引きずりながら私に近づき、鉈を持っていない方の手を私の頭に乗せた。次いで、頭をワシャワシャと優しくかき混ぜられると、胸がきゅう、と締め付けられる気がした。

「今日はどうかしたんですか?」

そう尋ねれば三角さんは少し考えたふりをして、鉈を壁に立てかけて近づいてきた。なんだなんだ、と興味津々で三角さんを見上げると戸惑ったようにまた手が伸びてきて私の頬を両手で優しく包み込んだ。

「えっ、あの三角さん…?」
驚いて、上ずった声で声をかけたけれど三角さんは私の頬に触れたままピクリとも動かない。どうしてしまったんだろう、と思ってなおも動かずに彼を見ていたら今度は三角さんの右手が顔の上を滑って唇に移動した。最初はまるで静かに、とでも言うように人差し指を当てらる。三角さんの触り方がなんだかとってもくすぐったくて離れようとすれば今度は上唇と下唇の間に指が滑り込んで入り口付近をなぞった。
無性に恥ずかしくなって、三角さんやだ、と声を出しても三角さんはやめてはくれなかった。今度は口の中から親指と人差し指を使って舌を外に引っ張り出して触り始めたものだからさすがに身体を捩って抵抗すれば意外にもあっさりと指は離れた。

「三角さん、どうしちゃったの?」

問いかけに、三角さんは頭だけを私の顔の近くに寄せた。私は瞬時に三角さんのしたかったことを理解した。

「失礼します…!」
今度は彼の鉄の被り物を両手でしっかりと包み込んで、自らの顔を近づけた。
そして、三角頭の先端にちゅっと軽いキスをした。

「これで満足ですか?三角さん」

数秒固まった三角さんは味をしめたのかもっともっとと頭を押し出してくる。ほんとに甘えたさんだなぁ、と少しばかりの優越感に浸りながら私は頭のいろんなところにキスしてあげた。

「今日はどこに連れてってくれるの?」
体を離して、頭2つ分ほど大きい彼を見上げて聞けば三角さんは片手に鉈を持って、私を少し見た。ついて来いの合図だ。私はゆっくりと鉈を引きずり歩き始めた三角さんの後ろを鼻歌交じりに追いかけた。


20151114

 

 

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