私の恋人は忙しい人である。

五番隊隊長に着いていて、休みは極端に少ない。もちろん隊を取り仕切る隊長が休み惚けていたら士気が下がると思うしそこに文句を言いたいわけではないけれど。

もやもやした気持ちのまま、私は1人隊舎の自室でぼーっとしていた。今日はようやく2人共丸1日休みを取れて、どっか行こうか、なんて話していたのに急遽流魂街に現れた虚討伐に呼ばれてしまい、結局まだ顔も合わせていない。よっぽど急ぎだったらしく藍染副隊長から連絡が代わりに入ったのが数刻前。
こうなったら1人で遊んでやる!っと意気込んではいたが、気分が沈んでしまっていて部屋を出る気にもなれなかった。

1人で過ごすのは嫌いだ。静かすぎてまるで世界中に自分1人なんじゃないかと不安になる。目を瞑り耳を傾ければ2、3日前までひっきりなしに鳴いていた蝉の声がぱたりと聞こえなくなったことに気がついた。もう夏も終わりかぁ、と寂しさが募る。

「真子のばーか。」
「誰がバカやねん、阿保ぅ。」

私は背後から聞こえた声に飛び上がって、扉を見た。腰より下まで伸びる綺麗な金髪が目に飛び込む。さっきほどまで扉にいた真子は気がつけば私を強く抱きしめていた。鼻を霞めるいつものシャンプーの香りにようやく脳みそが追いついて、頭が理解すればほっとした。

「真子、帰ってきてたんだ。お疲れ様。」
「おう、ついさっき終わってすぐここに来てん。遅なって悪かったなぁ。」

よしよしと頭を撫でてくる彼が愛おしい。彼の匂いと温もりに自然と顔が緩む。一回りほど大きい彼の手が髪に触れるたびに先ほどの不安なんか一気に吹き飛ばしてして、ドキドキと脈拍を上げる。

「仕方ないでしょ、隊長だもんね、平子隊長?」
「そんな意地の悪い言い方しなや、拗ねんでもええやん。ほらごっつかっこええ平子隊長がキスしたるで」
「やだ、気持ち悪い」
「か、彼氏に向かってキモいはないやろ、キモいは!」

ほんとのことでしょ?と続ければ真子は大げさな泣き真似しだした。子供だなぁと苦笑いしつつ、今度は私が頭を撫でてあげれば、突然手首を真子に掴まれて、引っ張られた。自分の顔が、真子の顔に近づいていく。後はもうどうされるか、わかりきっていた。

「スキあり、や」

唇が合わさる直前、彼は得意のニヒルな笑みでそう言うと、ちゅっ、とわざとらしくリップノイズを出して触れるか触れないかのキスをしてきた。

「不意を突くなんて、ひ、卑怯ですよっ…」
「なんで敬語やねん」
「なんでもないし。ねえ、」
「ん?」

私は真子の胸元を握りしめて彼の唇にまた自分の唇を近づけた。
真子からのキスよりも長い間触れ合った唇は、離れた時にはお互いの熱を共有し、熱くなっていた。

「お返しのスキあり」

してやったり、と笑えば真子は困ったように首の後ろを掻いた。
「ホンマ、怜にはかなわんわ」
「あたりまえでしょ」

その日、真子の帰ってきた私の部屋からは笑いが絶えずにいた。


20151114


 

 

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