十一番隊隊長更木剣八は、いつも決まった時刻にお昼寝をする。虚討伐やらの任務で出来ない時もあるけれど、剣ちゃんは大体午前中の仕事が終わった後、みんなが昼飯を食べに行く間の静かになった隊舎でそよ風と暖かな日差しに包まれて寝るのが好きだ。
そして私はそんな剣ちゃんとやちるちゃんと一緒にお昼寝をするのが日課となっていた。

いつものように十一番隊四席としての仕事を終えて、職務室で弁当を食べ、隊首室に向かう。十一番隊の男たちはみな戦闘以外に興味がないのか料理もあまりすることはなく、ほとんどが昼食を外で済ます為、隊舎に残っているのは私くらいだった。
入るよーと襖の前で声をかければ、中からはおう、と短く愛おしい剣ちゃんからの返事が聞こえた。彼は私の上司でもあり、隊長でもあり、そしてなにより恋人だ。出会いの話は割愛するとして、私は彼にぞっこんである。

すっ、と慣れた手つきで襖をあければ、いつもは一番に飛びついてくるやちるちゃんが来ない。不思議に思ってキョロキョロと辺りを見回すも、やちるちゃんはどうやら隊首室には居ないようだ。

「剣ちゃん、やちるちゃんは?」
「あぁ?どっか行った」
「じゃあ今日のお昼寝は2人きりかぁ」
時折、やちるちゃんはいろんなところを遊び歩く。大体は近くの隊でお菓子を貰ったり悪戯を仕掛けたり、なのだが稀に朽木隊長の屋敷だったりするもんだからその度に肝が冷える。毎度毎度朽木隊長から冷ややかな目で見られるのでそろそろ人の家に不法進入するのはやめて欲しいのだが、いかんせん、彼女は悪気があってやってるわけではないのだから仕方がなかったりする。
よいしょ、と近くにあった座布団を引っ張ってきて縁側に座れば、剣ちゃんもこちらに近づいてくる。

「…膝貸せよ」
「もちろん」

お昼寝の時は私が膝枕をしてあげることが多い。大きな身体の剣ちゃんじゃ、座布団を折り曲げて枕代わりにしたとしても低すぎて寝づらいのだそうだ。だから自然と剣ちゃんは私の膝で寝るようになった。

剣ちゃんは私の膝の上に頭を乗せると、そのまま目をつむってしまう。昼休憩中の詰所は人の気配がなくなり、辺りは静寂に包まれる。普段はうるさい私たち十一番隊であってもそれは同じだった。

「剣ちゃんの髪、意外と柔らかいよねぇ」
ツンツンと尖った髪を指で触れてみる。触るたびに先端についている鈴が、ちりん、ちりんとなって部屋に響き渡る。その音が心地よくてついつい何度も鳴らしてしまう。

「うるせぇ。寝れねぇだろうが。」
「へへへ」
「おい、怜、なに笑ってんだ。」

不機嫌そうに剣ちゃんは閉ざした瞼をあげ、私を見上げた。片目しか見えない彼の瞳は鋭いけれどどこか優しくて、ああ、愛されてるなぁと思う。護艇十三隊中で私だけが見れる顔。それがすごく嬉しくて独占欲が満たされていくのがわかる。それもこれも、剣ちゃんが私にこんなにも優しい霊圧を当ててくるからいけない。剣ちゃんは霊圧のコントロールが苦手な筈なのに漂う霊圧はふわふわと心地良い感じがした。

「んーん。なんかね、こうして平和なのが幸せなの。」

そういってまた、へへとだらし無く笑えば「…そーかもな」なんて返事が返ってきてびっくりする。まさかあの戦闘大好き強いやつ大好きな剣ちゃんからそんな言葉が出るなんて思ってなかった。

「平和ってことは戦わなくていいんだよ?嫌じゃないの?」
「お前となら、そんなに嫌じゃねぇよ。たまにはな。」
「剣ちゃん大好き」

剣ちゃんの中に私が存在できるなんて、なんて幸福なんだろう。剣ちゃんのそばに居ることが許されるなんて、なんて幸福なんだろう。

剣ちゃんは嫌がるかもしれない。けど、願わくばこの一時の平和が永遠に続けば良いのに、なんて空を仰ぎ願った。



20150828


 

 

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