彼はいつも、私に妹のように接した。一度も女としては見てはくれなかった。



「ビル、結婚おめでとう。」
心にも無い言葉を私は張り付いたような笑顔で言う。彼はもしかしたらこれが本心では無いと気づいていたかもしれないが、何も言わず優しく笑って「ありがとう、怜」と頭を撫でてくれた。

彼の名は、ビル・ウィーズリー。いや、正しく言うならばウィリアム・アーサー・ウィーズリー。今日、ビルは結婚する。もちろん、お相手は私ではなく容姿端麗、頭脳明晰、まさに才色兼備なボーバトンの卒業生フラーだった。

1学年上の彼に何年も何年も片思いをして、ビルが卒業した後も何通も手紙のやり取りをした。あと1年生まれるのが早かったら、とどれだけ後悔したか計り知れない。そんな苦労を水の泡にしてしまうように、フラーはいつの間にかビルの隣で笑っていた。
私にとってビルは運命の相手であっても、ビルにとって私は運命の相手ではなかった。ただそれだけのことなのに、私は受け入れるのにたくさんの時間を必要とした。まだ望みがあるのでは、とさえ思った。でもそれも今日でおしまいだ。

無事、2人の結婚式は終わった。何だか思っていたよりもすんなりと心に入ってきたのは、2人への祝福の気持ちだった。

「怜」
花嫁衣装に身を包んだフラーに呼ばれた。2人になりたいという彼女のお願いを聞いて、結婚式会場であるテントの外に出た。

「フラー、貴女とっても綺麗だわ」
「ありがとう。嬉しい。私ね、怜は来てくれないんじゃないかってずっと思ってた。」

その言葉にドキリと胸が跳ねた。フラーは私がビルを好きでいたことに気づいていたのだろうか。

「…そうね、私もそう思ってた。」
そう、素直に告げると悲しそうにフラーが笑った。
「でもね、フラー達にとって今日がスタートラインであるように、私にとっても今日が新しいスタートなの。」
「怜、貴女やっぱり…」
「フラー、それ以上はダメだよ。それに花嫁がそんな顔じゃビルも悲しんじゃうわ…」


「フラー」
ビルがテントの幕からひょっこりと顔を出した。そんなビルにフラーはちょいちょいと手招きして2人並んで私の前に立った。

「改めて、結婚おめでとう。私はフラーとビルの幸せをいつでも願ってるわ。大好きよ。」

本心だと言えば嘘になるし、だからと言って偽りだと言えばそれも嘘になる。それでも私は曇る自分の心さえも晴れやかにするような本物の笑顔で彼らを祝福した。

一つの愛の始まりと一つの恋の終わり。
20141130



 

 

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