「怜、今日も私の素晴らしさについて聞きたいか?」
「いや、結構です。」

毎日、毎日、毎日、先輩は私に自慢話をする。名を平滝夜叉丸。なぜだか彼は私の恋人になっていた。最初は聞いてあげていた自慢話も何度も聞くうちに聞き飽きた。

私の彼氏はナルシストだ。

「何故だ、怜!?どうして私の話を聞きたがらない!?」
「はぁ」
気の抜けた返事を一つ返す。滝夜叉丸先輩は自分がナルシストだということを自覚していない。これがまた厄介である要因の一つであることは本人以外の誰もが周知の事実だろう。






昼食を早く食べ終えて廊下を歩いていたら、中庭に滝夜叉先輩を見つけた。あんなとこで何してるんだろう。私は好奇心で中庭に出ると滝夜叉先輩に近づいた。

「滝夜叉先...」
私の放った言葉は中途半端なまま誰に聞かれるでもなく、消えた。
正直、驚いた。滝夜叉丸の目の前には、くのたまの女の子がいた。

「わ、私滝夜叉丸先輩のことが好きです」
「私をか?」
ひゅっ、喉が音をたてた。目の前の出来事に息が止まる。

「はい、お慕い申ししております」
くのたまは恥ずかしそうに微笑んで、滝夜叉丸先輩を見つめていた。

「そうかそうか、いやぁ私も罪作りな男だ」
そういった先輩の満更でもなさげな弾んだ声。頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。ズキリと胸が痛む。2人はまだ話し込んでいる。これ以上は、嫌だ。耐えきれずに私は思わずその場から逃げるように走った。頬を伝った涙が止まらない。
私は自分が思っていたよりずっとずっと滝夜叉丸先輩が好きだったのだ。もっと素直にこの気持ちを伝えていれば不安になることも、悲しくなることもなかったかもしれない。自業自得だと心の奥で嘲笑った。



私はとある部屋の前で走るのをやめた。息も絶え絶え、たどり着いたのは保健室。私が一番落ち着く場所といってもいいと思う。幸いにもまだ昼休み、当番の保険委員も今頃は食堂で美味しいご飯を食べていることだろう。
誰もいませんように。私はそう祈りながら襖を勢いよく開けた。

「…あれ?どうかしたの、怜ちゃん」
ああ、私はなんて運が悪いのだろか。保健室には保健委員長、善法寺伊作先輩がいた。近づいて来て私が泣いていることに気がついたのだろう、彼は息を詰まらせて困惑顔だ。見苦しいところを見せまいと袖で軽く涙を拭った。

「すいません、少し休ませてもらっても構いませんか?」
「いいけど…、誰かと喧嘩でもした?それともどっか痛むとか、」
伊作先輩は心配するように私の頭を数回、優しく撫でてくれた。その手の心地よさがせっかく止まりそうだった涙をまた溢れさせた。1人がよかったとやけに冷静な頭で思った。こんなときに優しくさたら子供のように泣きじゃくってしまう。

「僕で、よかったら話してごらん。」
伊作先輩は私の顔を覗きこんで、安心させるように笑った。

「…実は、」
結局私は今日も伊作先輩の優しい言葉に甘えてしまう。



「…それで滝夜叉丸先輩は素直な女の子の方が好きなのかなって思って」
伊作先輩に向けて無理やり笑顔を作る。ははは、と乾いた笑い声しか出せなくて私は相変わらずダメだなと自己嫌悪。そんな中思い出すのはあの女の子だ。かわいくて、素直な女の子らしい子。滝夜叉丸先輩はあの子と付き合っていた方が幸せだと思う。

「いくら自惚れ屋の滝夜叉丸でも、怜のことが本当に大切なら相手の子の告白は断るんじゃない?」
「で、でもっ!私素直じゃないし、はっきりいってこんな子可愛くないと思います」
伊作先輩は少し考えるように顎に手を置いて、私を見た。

「そんなに不安ならさ、本人に直接聞いてみればいいんじゃないかな?」
「えっ?そ、そんなこと言われても...」
それこそ最初は渋っていたけれど「素直になるんでしょ?」という伊作先輩の後押しにはぐうの音も出ず、勇気を振り絞っての直接対決となった。

「ありがとうございました、伊作先輩に相談してよかった。」
「またいつでもおいで」
笑って送り出してくれる伊作先輩に深々と一礼して保健室を飛び出した。


「…僕は怜ちゃん、可愛いと思ってるよ」
困ったようにそう呟いた声は誰にも届かない。



とは言っても。

「どうやって聞こう…」
うんうんと唸りながら私は誰もいない廊下を歩いた。

「...なんで私がこんなことで悩まなきゃいけないんだろう。元はといえば滝夜叉丸先輩が告白されて嬉しそうにしてるのが悪いんじゃないの?!」
頭ん中がぐしゃぐしゃになって、私は頭を抱えた。

「私がどうかしたのか?」
「ふぎゃあ!!!」
突然聞こえてきた、背後からの聞き覚えのある声に私は奇声をあげて驚いた。バッ、と振り向くと数歩後ろに立っていたのは滝夜叉丸先輩。

「怜?」
名前を呼ばれて、やっぱり好きだと思った。苦しいし、混乱してるし、嫉妬ってなんて醜いんだろう。あぁ駄目だ、滝夜叉丸先輩の前では絶対泣かないって決めてたのに。

「怜?!な、なぜ泣いているんだ…?」
いつもの自信満々な声などでは無く、心配そうに眉を八の字に下げた先輩はかなり焦っていた。変に心配させるより、いっそのこと全部ぶちまけて、当たって砕けようか。

「…滝夜叉丸は素直な子の方が好き?」
「…は?なにを言って…?っもしかして告白されたとき見てたのか?」
「ご、ごめん。別に覗こうとしたわけじゃなくて…」
無表情で1歩、また1歩と近づいてくる先輩に後ず去ろうとしたら、腕を引っ張られてそのまま彼の胸にダイブした。離れられないようにがっちりと抱きしめられたまま耳元で滝夜叉丸先輩が話始める。

「私は、少なからず告白されて嬉しかったんだと思う。」
どうしよう、心臓がぺしゃんこになりそうだ。もしかしたら私達の関係はここで終わってしまうかもしれない。嫌だ、嫌だ。滝夜叉丸先輩の胸に必死でしがみついて唇を噛み締めた。

「でもあんな告白なんの意味もない。怜、お前からの言葉以外なんの意味も持たないんだ。」
そう耳元ではっきりと聞こえた。戸惑うように顔を上げたら、滝夜叉丸先輩は今まで見たことないような優しい微笑みで私を見ていた。その瞳は嘘などついていなくて。それでも信じられなくて。

「本当、に?」
嘘じゃない?確かめるように聞き返す。

「ああ、本当だとも。自分以外の人を愛したのは怜、お前だけだ。」
なんとも滝夜叉丸先輩らしいその言葉に自然と笑い声が漏れた。ああ、私って幸せ者なんだ。ようやく、心が晴れた気がした。

「私も愛してる!!」
空を仰いで大声で愛を叫んだ。


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前のサイトから掘り出して加筆したものです。

20140812

 

 

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