親が小さい頃に死んでしまった私は、叔母夫婦に育てられた。叔母は私を嫌っていて、私も叔母を嫌っていた。

そんなある日、妙に機嫌のいい叔母が「ドライブに行きましょ」と誘ってきた。はっきり言うと私と話すときに機嫌がいいなんて怪しいし、行きたくは無かった。それでも叔母に逆らったらぶつぶつ文句を垂れるのが目に見えていた私は仕方なく首を縦に振った。

「どこまで行くんですか」

「ついてからのお楽しみよ。それより、はい、喉が渇いたでしょう」

そう言って叔母は私にペットボトルを差し出した。思えば朝早くから連れ出され、今日は一滴も水分を取っていない。自覚すると、途端に喉が渇いたような気になって私は疑いもせずそれを受け取る。
そしてキャップを手早く開けると一気に喉の奥へと流し込んだ。

思えばこれがいけなかったのだ。

気がつくと私は霧の中の街に一人で取り残されてしまっていた。
普段なら用心深くしていたはずなのに、油断してしまった。きっと手渡された飲み物に睡眠薬が仕込まれていたのだろう。
あーあ、と私はため息をつく。
いつかは捨てられると思っていたが予想より随分と早くて心中とても焦っていた。
これからどうしようか。まず道中寝てしまっていたからここがどこかもわからないし、周りに人気はない。そればかりか、周囲が見えないほどの霧に阻まれ、歩くことすら困難だ。

それでも動かないわけにはいかない。私は霧の街を歩き始めた。





あれから数日たった。拾った地図によるとどうやらここはサイレントヒルという街らしい。
そしてこの街はすでに封鎖されている様だった。至るところで窓ガラスが割れていたり、老朽化が進んでいたりと人が住んでいるなんて考えられなかった。だけど食べれそうな食料はなぜか見つかる。それを思うと、ここに留まってもいいかも、と思うが問題があった。


ここには化け物がいる。信じられないかも知れないが、手のない怪物やナース服の怪物、上半身にも下半身がくっついている怪物など私は多くの怪物をこの目で見てしまったのだ。

面倒なのは赤い三角頭の怪物だ。
出くわすといつまでも追いかけてくる。

私は話が通じる相手では無いことを悟りながらも「くるな!」と叫びながら逃げるのだ。

今日こそは会いませんように、と思っていたら前の道から金属を引きずるような嫌な音が響いてきた。三角頭だ。

私は直ぐ様、踵を翻して走る。捕まったら殺されてしまうかもしれない。奴は大鉈を持っていた。あんなもの降り下ろされれば一発でさよならだ。


「うわっ」

暗闇から現れた人影に私は急ブレーキをかけた。現れたのはナース服に身を包んだ怪物だった。

全力で走っていた私は目の前から近づいてくるナースに気づくことができなかった。これでは挟み撃ちになってしまう。あいにくと周りには武器になりそうなものはない。最悪な状況におちいってしまっている。そしてナースは私に持っていたナイフのような物を振りかざしてきた。もう終わりだ。覚悟した私は固く目を瞑った。


そのときだ、ふわっと風を感じた。
痛みはやってこない。

私は恐る恐る瞼を上げる。
「三角…頭?」

目の前には私に背を向けたあの三角頭がいた。ナースは大鉈によってだろうか、数メートル先まで投げ飛ばされていて既に事切れているようだった。

もしかしてこいつは私を助けてくれた?

そんな考えが頭を過った。でも今までずっと追いかけられてきたのだ、信じるには早すぎる気もする。

三角頭は私の声に反応したのかそうでないのか、私の方へ向き直った。それに驚いた私は自然と体が強張るのがわかった。

この三角頭は私を殺すつもりなんだろうか。そのためにおいかけてきたのだろうか。わからない。

私が思考をフル稼働している間、三角頭何もしないでこっちを見つめていた(と言っても目は見えないから見られているかは謎だ)。
そんな様子に痺れを切らして、私は尋ねた。

「殺すんでしょう?今じゃないの?」

そう尋ねると、驚いたのか三角頭の体がびくっと跳ねた。その後自身が持っていた大鉈から手を離し、床に落として見せた。ガラン、と大きな音が周囲に響く。
それには私が驚いた。殺す気は無い、そう言っているようにみえた。


「じゃあなんで追いかけてきたの?」

そうしたら三角頭は困ったようにそわそわしながら、こちらを見ると軽くこてん、と首を捻った。その様子を見る限りでは彼もなぜ追いかけたのかわからないらしい。

「ぷっ、あはは…!」

私は何が可笑しかったのか笑ってしまった。何故だろう、目の前にいる彼がとても可愛く見える。私は目を細めて微笑んだ。

「ねえ、三角さん、私にこの街を案内して貰えません?」

この街のこと、そして目の前の三角頭…三角さんのことをもっと知りたいと思ってしまった。

彼は首を縦に振ると、大鉈を拾い上げ私に背を向け歩き出した。どうやらついてこいということらしい。今度は私が追いかける番というわけか。

私はまた笑ってしまった。

20140222

 

 

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