「じゃあ、もうHR始まるし行こ」

体育館にかかった時計を見て私はそう言った。HRまで後10分足らずだ。急がなくてはせっかく早く来たのに遅刻してしまう。

「怜ちゃん」

立ち上がった私は、森山に呼び止められた。
「どした?」と問いただしたら「もうちょっとだけ、話聞いて。お願い。」なんて、真面目な顔して言ってきたものだから面食らってしまう。

「う、うん…」

そう言って私は森山に向き直った。なぜだか緊張してしまう。こんな改まって何を話すのだろう。


森山を見たらぱちりと目があってどきりとした。やっぱりまだこれに慣れない。
森山は私を真に見つめたまま軽く呼吸をしたかと思うと喋り始めた。

「俺ね、怜ちゃんのこと好きだ。」

好きだ、と。一言それだけ。予想外のそれには私も固まってしまって、「怜ちゃん?」と呼ばれてはっ、と意識を戻す。

「…ま、まじ?」

「まじ。」

恐る恐る聞き返して見たら森山は顔色も変えずに真面目に返答して来た。ようやく森山が放った言葉を理解して恥ずかしくなって手で顔を覆った。絶対今顔真っ赤だ、森山の顔が見れない。
冗談じゃないよね、夢じゃないよね、現実だよね。

指と指の隙間から森山を覗き見たら森山がにやけていた。こいつ、もしかして気づいてたのか。

「えっ、何、何その反応。期待しちゃってもいい?」
「うっさい、ハゲ!女タラシ!私も好きだよ、バーカ!」

「うん、知ってる。」

「なっ、…自意識過剰じゃないの?!」

どさくさに紛れて告白の返事をしたら、今度は優しく微笑んだ。森山の余裕そうな態度が気にくわない。私なんてずっと恥ずかしくてテンパってるのに、と心の中で呟いた。というか好きだということに今日気づいたのに森山が知ってるってどういうことなの。やっぱ自意識過剰じゃん。

「でも怜ちゃん俺のこと好きだろ?」

…ほんと森山はこれだから。なんでこんなやつ好きなんだろう。でも、わかんないけど、やっぱ好きだと思った。

「もう言わない」

「なんで?」

「…恥ずかしい、から」

森山の見透かすような視線に耐えられなくなって下を向いた。

「…ほんと、可愛すぎる」

「もっ、森山は、かっこよすぎる…」

その言葉に私はもっと恥ずかしくなったから、言い返してやった。

だがしかし、森山を見たら照れるどころか、さっきまでにこにこしていた顔が真顔に戻っていて、やばい何か悪いこと言ったかなと不安になる。


「怜、キスしていい?」
「…調子にのんな!」

心配した私が馬鹿だった。こいつはそういうやつだ。
流石にキスなんていきなりできるものじゃないし、恋心だって今日気づいたのに無理だ。心の準備なんてできていない。というか、今、呼び捨てされたよね…?不意打ちとか森山の癖に生意気。

一方、森山は見るからに肩を落として暗い表情をしていた。めんどくせぇ。


「…じゃあ3P打ってよ。それで入ったらその、えっと…」

キスしよ、なんて私に言えるわけなくて。私の言葉は尻すぼみに消えていった。
同情から言ったわけじゃない。そんな軽い女じゃない。ただ、森山とならしたいと思った。どうせ心の準備なんてきっと永遠に出きるわけないのだ。森山相手に緊張しないなんて、今の私にはありえないから。

「絶対決める。バッシュとボール取ってくるから待ってて。」

森山は察してくれたようで、キラキラと目を輝かせたかと思うと、真剣な顔になってそう言って部室に走っていった。

ほんと単純というか、一生懸命というか馬鹿と言うか。でもそんな彼に満更でもない自分がいた。


「森山、君が好きだよ。」

それは誰にも聞かれることなく体育館に響いて消えた。



END
20140122

 

 

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