昨日はあれから森山とショッピングモールへ出掛けた。私は終始なせが緊張しっぱなしだったし、森山は森山だったし、疲れた。けど楽しかったかもしれない。
そして月曜日、今日は学校だ。
昨日寝付きが悪かったのが災いして、寝坊した。眠いし、何より疲れがとれないどころか悪化しているような気もする。
いつもより遅くに教室に着く。ガラッと扉を開けて中に入ると半数以上はすでに登校していて、思い思いの空間を作り出している。
私は挨拶もそこそこに自分の席まで行くと机の横に鞄を掛けて座った。
私の席は窓際後ろから2番目というまあいい席だ。
「怜ちゃん、おはよー」
デジャヴ。昨日確実に聞いた声が後ろから聞こえてきて嫌々ながらに振り返った。
「…っ」
そこには案の定森山が居た。
昨日からこいつといると心臓が締まる。発作かもしれない。ついでに顔が直視できなくなって、無意識に私はガタッと席を立っていた。
そして森山から全速力で逃げた。
「えっ、ちょ、なんで?!」
驚く森山の声が聞こえてきた。ごめん、森山自分でもわかんないんだ。とにかく落ち着くまでは一人になりたい。周りの視線を集めたが尚もがむしゃらに走った。
「怜ちゃん…!」
とそこへ後ろから森山が追ってきた。息切れもしてないなんて、運動部怖い。
じゃなくて、
「追いかけてこないでよ!」
できるだけ大声で森山に言った。もちろん走るのも止めないし、後ろも振り向かない。今油断したら捕まる。所詮女と男では歩幅が違うんだからすぐ追い付かれる。
「怜ちゃんこそなんで逃げるんだよ!」
それがわかったら、苦労しないんだよ!
「うっさいハゲ!」
八つ当たり度100%なのはわかっていたが暴言をはいた。まあこれが私の通常運転だ。他は全然通常じゃないのに。
「ハゲって何?!ハゲてないよ、俺?!」
「きゃっ」
角を曲がり続ければ撒けると思って何回目か。目の前に階段があった。そのまま下れば良かったものの一瞬だけ躊躇してしまって躓いた。
落ちるっ!
どうすることもできなくて、重力に逆らうことなく傾いた身体。もうだめだ、と諦めて目を瞑った。
「あぶ、ねっ」
ぐい、と腕を思い切り引かれて前でなく後ろに倒れ込んだ。
目の前には心配そうな森山。私は森山の腕の中にいた。状況が把握できないけど、もしかして私は森山に助けられたのだろうか。いやもしかしなくともそうだ。
「大丈夫?怪我してない?」
私の肩を掴んで凄い剣幕でそう聞いてきたからとりあえず痛いところもないし2度頷いた。
「…よかった、ほんとよかった、」
耳元で聞こえた声。ぎゅう、と痛いぐらいに抱き締められた身体。心臓は飛び出そうなほどばくばくいっているのに酷く心地よくて、安心した。それと同時に助けてもらわなければ最悪死んでいたかもしれないという恐怖が今ごろになって襲い掛かってきて、目から何かがこぼれ落ちた。
「…ごめん、ありがとっ…」
目の前にいる森山のシャツにしがみつく。
いつも素直じゃなくて、迷惑かけてごめん。助けてくれて、心配してくれてありがとう。
「あーはいはい、泣かないで。」
森山はそう言ってあやすように抱き締めながら私の頭を撫でてくれた。優しすぎるんだよ、ほんと。お人好しめ。
「泣いてない、けど」
人前で泣くなんてない。きっとこれは汗だ。いっぱい走ったから。
「けど?」
いつもならスルーなんてしないのに、的確に突っ込むのに。
今の森山はそれをしないで優しく続きを聞いてきた。
「ちょっとだけ」
ちょっとだけ、このお人好しに甘えよう。
森山の背中に腕を回して必死にすがりついて泣いた。高校にもなってこんなことで泣くなんて思っても見なかった。怖かったし、申し訳ないと思ったし、もやもやと渦巻く感情の名前がわからなくてイライラして。
いろんな小さなことが積もりに積もって涙が出た。恥ずかしいとも思ったが止まらない。
「大丈夫、大丈夫」
その言葉が耳を掠めて、心は灯をともした。
言葉ってこんなに優しくて温かいものなんだね。
20140105
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