突然だが私は今、福井くんと遊園地に来ている。

「さみぃ」
「今日はそんなに寒くないじゃん。もうすぐ春だよ?」
「…さみぃ」

ふかふかの暖かそうなマフラーに顔を埋めた福井くんは、再三そう言った。県外から秋田に来た福井くんは未だにこの寒さに慣れないらしく、いつも寒いと連呼しているが秋田の冬に慣れっこな私は既にマフラーは片付けてしまった。

私たちは遊園地の門を潜って中に入ると、乗り物券を買った。某夢の国なんかに行くと入場券を買ったら乗り物に乗り放題だが、秋田の小さな遊園地は乗り物に乗る度にお金を払わなきゃいけない。そういうところはめんどくさいなぁと思う。

ぐるっと園内を見回すがそこまで人が多いわけでもなく、比較的空いていた。休日なのに寂れている感じが私は好きだったりする。遊園地が貸しきりのように思えるのが大半の理由ではあるが。


「とりあえずどれ乗る?」
「寒いから室内入ろーぜ」
「……お化け屋敷?」
「おう」

真顔でそう返事をした福井くんはすたすたと先に行ってしまう。

内心、うそだろ?と思う。ここまで来て1番最初にお化け屋敷とかありえない。別に怖いと言うわけでは断じてな…くもないかもしれない。
正直乗り気では無かったが遊園地に来たからには全部の乗り物を制覇したいとも思っていたから仕方なく、お化け屋敷の方へ向かう福井くんの後ろ姿を追いかけた。





お化け屋敷の前に着くと並ぶことなく嫌に笑顔なスタッフさんに手を振られながら、すんなりと中に入れた。

外はあんなに明るかったのに窓一つない室内は真っ暗で、所々についている薄暗い明かりを頼りに歩いていくしかない。

「ふふふふ福井くん…!」
「な、なんだよ」

最初はけろっとしていた福井くんも段々と怖じ気づいて来たのか、頼りなく返事を返してきた。普段ならからかってあげるとこだがそんな心の余裕が今の私にある筈がなく福井くんの背中を押した。

「おい、怜何すんだ!」
「お化け屋敷入りたいっていったの福井くんでしょ?!先に行ってよ…!」
「はぁ、ちょ、まじふざけんなって」

ぐいぐいと背中を押して半ば強引に福井くんの後ろに着くと渋っていた彼も諦めたのか前を歩いてくれた。
様々な仕掛けにびびりながらも何とかゴールへ進んでいたが、突然福井くんが立ち止まって私は彼の背中に鼻をぶつけた。

「痛っ…!ちょっと何立ち止まって…」

何の反応も示さない福井くんを不思議に思って彼の背中から離れ前を覗いてみたら目の前には白い着物を来た血だらけの男の人がぼんやりと立っていた。

あまりにも本物のような雰囲気に心臓がバクバクと脈打ち始め、足がすくむ。

そしたら福井くんが焦ったように私の手を掴んで、来た道を戻ろうと踵を翻した。
「怜、に、逃げっぞ…!!」
「ええ?!」

福井くんに引っ張られながら、後ろ髪引かれる思いで後ろを見ると、亡霊さんはにこやかに手を振ってくれていて思わず掴まれてない方の手で振り返してしまった。
もう怖いとかよくわからなくなって、ただ走って逃げている自分たちの置かれた状況に笑いが込み上げてくる。高校生にもなってお化け屋敷で逃げ回るなんて思いもしないだろう。

出口、もといい入り口を全速力のまま突っ切ると、外の光にほっとした。
切れた息を落ち着かせるように胸に手を当てながら、福井くんの方に目を配ると息切れ1つしてなくて流石スポーツマンだと感心してしまう。体力の無い私には到底考えられないことだ。

「てか私たちなんで逃げてたの?ダサいね」

「それな」

2人して一頻りケラケラと笑う。途中笑いすぎて噎せた福井くんに私が「大丈夫?」と声をかけながらも、笑いは止まらず結局終始笑いっぱなしだった。






「はー、楽しかった」

大体全部の乗り物を網羅して、時刻は早くも4時すぎだった。この遊園地の閉園は5時。もうあと1つか2つくらい乗ったら帰らなければならない。

「結構乗ったよな」
「そーだね。後は……観覧車ぐらい?」
「めっちゃ定番なのが残ってんじゃん」
「確かに。観覧車って意外に乗る人多いから混んでるかもね」
「怜どーすんだ?乗るよな?」

福井くんの問いかけに私は考えることもなく答えた。

「もち!」


こうして私たちは観覧車へ繰り出したのだ。


20140407

 

 

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