今日はなんの日?

答えは卒業式。今年も多くの先輩達が卒業していく。その中には大好きな笠松先輩の姿もあった。

卒業生が思い思いに写真を撮ったり、話したりしているなかを潜り抜けて、彼との約束の場所まで走った。
昇降口から校舎裏を通って中庭へ入る。中庭にある一際大きな大樹の下に笠松先輩はいた。

「笠松先輩」

そう呼んだら笠松先輩は一言「おせーよ」と振り向いた。

どうやらかなり待たせてしまったようで申し訳ない。在校生は式の片付けをしていたので遅くなってしまったのだ。

すいません、と一言告げてから私はしっかりと笠松先輩を見据えた。もう、これで制服姿の彼に会うのは最後だ。そう思ったら無性に落ち着かなくなった。

「あっえと、卒業おめでとうございます…」

「おう、ありがとな」

笠松先輩はそう言った。その表情は嬉しそうであったが、同時に寂しそうであった。

そんな表情を見たら覚悟を決めてきた筈なのに私まで寂しくなって次の瞬間にはつい、口から言葉が漏れていた。

「先輩」

「なんだよ」

「留年しましょ?」

「するか、ばか野郎」

笠松先輩は、持っていた証書の入っている筒の角で私の頭を軽く殴った。地味に痛くて咄嗟に頭を両手で押さえたら、笠松先輩は笑っていた。

私の言ったこと半分は冗談でもう半分は本気だ。それぐらい名残惜しい。もっと先輩との学校生活を楽しみたかった。

「寂しく、なりますね」

「何言ってんだよ、俺のことなんて新学期始まったら受験で忙しくて忘れちまうと思うぜ」

「そんなことないです!絶対忘れませんから!」

私が笠松先輩を忘れる?考えただけで胸が抉られたように苦しかった。ありえない。

「なに泣いてんだ」

笠松先輩が呆れたように頬を触った。そこで漸く私は頬を伝う涙に気づいた。

「わかんないです、けどっ先輩と離れるの、苦しくて」

目から溢れ出る涙が零れ落ちないように顔を上げたら笠松先輩の視線とぶつかった。笠松先輩は一呼吸置いて「葉山」、と私の名前を呼ぶと恐る恐る抱き締めてきた。

「な、先輩…?」

これには私も驚いてしまって、あたふたと戸惑ってしまう。笠松先輩が女である私をを抱き締めるなんてもしかしたら夢を見ているのかもしれない。

「お前は大学、行きてぇとこ決まってんのか」

「…大学?い、いえ決まってないですけど」

「いいか、今から言うことはあくまで提案だ、葉山を縛るつもりはねぇ。…俺と同じ大学に来ないか」

ひゅっ、と息が詰まる音が自らの口から出た。思考が追い付かない。私はほんとに夢かもしれない、と頬を軽くつまんで引っ張った。ぴりっと走る痛みが夢でないことを告げた。

身体を離した笠松先輩が訳がわからないといった顔で私を見た。私には笠松先輩の言葉がよくわかりません。

「葉山、お前何やってんだ…?」

「…だって夢なんじゃないかって、笠松先輩が抱き締めてくれたことも、同じ大学にって言ってくれたことも」

視界が涙でぼやけて前が見えない。今絶対笠松先輩にみっともない顔見せてると思うから必死に涙を止めようと試みるが止まるどころか鼻水まで出てきて大洪水だ。汚い。

「夢のがいいか?」

笠松先輩の問いかけにぶんぶんと首がもげるくらい強く横に振った。それを見て笠松先輩が笑ったのが、歪んだ視界の中でもわかって胸に暖かいものが流れ込んできたような気がした。


「先輩、私絶対先輩と同じ大学行きますから!だから1年だけ待っててくださいっ…!」

笠松先輩の居ない高校生活最後の1年は、笠松先輩との未来のためにも頑張らなければならないようだ。



20140311

 

 

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