緑間より先に着替え終わった俺は体育館の隅で暇を弄んでいた。

「真ちゃーん。部活おわったよね?一緒に帰ろう。」

そんなとき女の子が体育館の扉からひょこっと顔を出し、相棒の名前を呼んだ。
が、再三言っているようにまだ緑間は着替え中だった。

そこで漸くまだ緑間がいないのに気づいたのか彼女はこっちに顔を向けた。目があったのでにこり、と笑うと戸惑ったように俺に声をかけた。

「えっと、話すのは初めてだよね。私、葉山怜って言います」

葉山怜…聞いたことがある。確か緑間の幼なじみではなかったか。自分の事はあまり話さないあいつが柔らかい表情で彼女のことを話しているのを見て、こいつにこんな顔させるなんてどんなすごいやつなのかと気になっていたが。正直こんな可愛い子だとは…。

緑間を手なずけているんだからもっとボーイッシュで鬼のような性格なのかと思いきや、目の前にいる葉山さんはふわふわとした優しそうな女の子だった。

「俺は高尾和成。真ちゃんの相棒やってます、よろしく葉山さん?」

「あ、怜でいいですよ?」

「んーじゃあ怜ちゃん!俺の事は好きに呼んでね」

「はい、高尾くん。真ちゃんからよく話は聞いてます。いつもリヤカーを引いてくださってありがとうございます。」

最後の言葉に俺は盛大に噎せた。

「ぶふお、リヤカー、って」

だめだ、笑いとまんね。流石緑間の幼なじみというか、観点がちょっとずれてね?というか緑間怜ちゃんに俺の事何て話したんだよ、おい。

にこにこと尚も笑い続ける目の前の彼女に興味が湧いた。是非ともお近づきになりたい。

「えっ、リヤカーの人じゃ…?」

「リヤカーの人とか、ぶふ」

笑いすぎると人って涙でるよな?今まさにそれだ。笑いの沸点低いのは認めるけど。

彼女にとって俺は真ちゃんを運ぶリヤカーの人と。盛大にわろた。

ひとしきり笑って、緑間の話を暫し怜ちゃんとしていたら、更衣室から見慣れた緑が出てきた。


「待たせたのだよ。」

それは、俺へじゃなくてきっと怜ちゃんに言ってんだろうな。俺も結構待ってたんだけど。

俺達の前までくると緑間はぴたっと足を止めた。そこで緑間はなぜか俺と怜ちゃんを交互に見比べて、考える素振りをしていた。


「高尾。怜を家まで送ってやってくれ。」

「…は?」

緑間の口から出てきたのは突拍子もないお願いだった。理解できない。俺が怜ちゃんを送ってく?
真ちゃんまさか…。

ボボボッと顔に熱が集まるのがわかった。やべえバレた?

「真ちゃんちょっとこっち来て!」

怜ちゃんから少し離れたところまで半ば強引に引っ張っていく。

「どういうことだよ!?」

小声でそう聞いた。

「どうしたもなにも…高尾。お前怜気になるのだろう。」

…やっぱりバレてた。てか、こういうのはすこぶる鈍いと思っていたのだが勘違いだったのだろうか。いや、勘違いではないはずだ、ただそれに怜ちゃんが絡んでるとなると話は別、ということか?

どっちにしろよくわからない。緑間は俺に協力してくれようとして?いや、考えにくくね?早くも脳内会議が始まった俺を無視して緑間は口を開いた。

「それに俺が、もう少し練習したくなったのだよ。」

そう、ぶっきらぼうに言う彼の口端はほんの少しだけ上がっていて、ああ試されてるんだなって思った。
きっと緑間が怜ちゃんに向けてる思いというのは子供を見守る親のようなものだ。見定めているのだ、彼女が傷つかないように。
愛されてるねぇ……


緑間がそそくさと更衣室に戻っていくのを見ながらこれからどうするか、と思考を巡らせた。
まあ選択肢なんて無いに等しいけど。

「怜ちゃん。帰ろっか、家は真ちゃんの近くだよね?」






結局怜ちゃんと一緒に帰ることになった。

いつもは、緑間を乗せているリヤカーに彼女が乗る。
最初は恥ずかしいと、嫌がっていたがどうせ俺はこのリヤカーをもって帰らなければならないのだ、手で押して行くより漕いだ方が幾分早い。

暗いからそんなに見られないと説得して漸く乗ってくれた。

「じゃあ、リヤカードライブ出発!!」

俺は元気よくペダルを踏み込んだ。

「うぅ…はい」

後ろでは怜ちゃんが恥ずかしそうにしながらも、ちょっと好奇心が垣間見える瞳でそう答えた。

それからどうでもいいような会話をしながら怜ちゃんを送っていった。ただそれだけなのに幸せで終始ニヤニヤしてた俺は相当キモかっただろう。自覚はある。



「ありがとうございます。おやすみなさい。」

予想通り彼女の家は緑間のすぐそばだった。ぺこり、と丁重にあいさつする彼女の頭にぽん、と手をのせて軽く撫でてやる。

「ああ、おやすみ。また明日な。」

送り狼にならなくて、よかった、ほんと。しみじみ思う。彼女をここまで無事送り届けることができたことに胸を撫で下ろした。

「はい、また明日!気をつけて帰ってくださいね。」
お気づきだろうか、俺は今さりげなく明日も会う約束をしました。内心ガッツポーズ。 明日も楽しみだ。

その次の日、今度は緑間も加わって3人でリヤカードライブをすることになるとは、今の俺には関係のないことだった。


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またまた前のサイトのリメイク話です。
20131230

 

 

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