「宮地先輩ってかわいいですよねぇ」
目の前にいる人物を見てそう呟いた。
3年の教室に用もなく、ふらっと立ち寄った私は偶然にも知り合いの先輩を見つけて会話を(一方的に)弾ませていたのだが先輩は無視を決め込まれていた。
蜂蜜色のふわふわした髪にぱっちりとした目。身長の高さを感じさせない可愛さが染み出ている彼は宮地清志先輩。私の2個上の先輩だ。
「あぁ?葉山、お前誰がかわいいって…?」
…やばい。
どうやら先ほどの独り言は先輩に聞かれていたようで世にも恐ろしいスマイルが降り注いでくる。何を言っても無反応だったから聞いてないかと思ったのだがそれは違ったらしい。てか聞こえてたなら他の話にも反応してくださいよ。
顔が良い分笑顔と言うのは一つの武器になるかもしれないが先輩のは趣向が違うと思う。いや、かわいいけど。だけど殺気を放ったスマイルはちょっとご遠慮したい。
「嘘です、嘘です、先輩はかっこいいデス。」
これ以上怒らせても不利益になると踏んだ私は早々に先ほどの言葉を取り消した。誰だって命は惜しい。
「次言ったら轢くぞ。」
尚もダークに笑ったままで宮地先輩は物騒な発言をした。何度か言われたことのある言葉だが未だに慣れるどころかトラウマになりつつある。恐ろしいことこの上ない。
「怜」
「あ、高尾くん!」
「あ?高尾?」
まさかの救世主登場。現れたのは同じクラスの高尾和成くん。彼とは宮地先輩の毒牙から逃げるため、お互いに困っていたときは助けるという平和協定を結んでいるのだ。
「このあと体育だぜ、怜」
「あ!そうだった!」
リアルに体育だと言うことを忘れていた。体育の先生は1分でも遅刻するとかなり怒られるから苦手だ。怖すぎる。まあ目の前にいる先輩様の方が100倍怖いんですが。
ありがとう、と感謝の気持ちを述べると、俺次バスケだから先いくなと言って高尾は早々に去っていった。
「じゃあ先輩、私ももう行きますね!」
一言そう告げ、半分以上が席に座り始めた3年の教室を出ようとした。
「ちっ、おい…怜待てよ」
軽く舌打ちした宮地先輩に名前を呼ばれて引き留められた。そう、名前を…名前!?
「へっ!?い、今名前…」
そうだ、彼はいつもどう呼んでいたか。葉山と呼んではいなかったか。
つまり名前で呼ばれたのは初めてだった。
あまりに突然のことに驚きを隠せないであたふたと視線を泳がせるしかない。
「あいつに呼ばれるのはよくて俺に呼ばれるのは嫌なのかよ」
「へ?いや、ちがくて、」
別に嫌なんかじゃなかった。寧ろ嬉しい、のかもしれない。高尾くんに呼ばれるよりも。今までにないくらいにやけてる気がして必死に唇を噛んで耐えた。不細工に映ってるかもしれないがにやけだしたらそれこそ不細工になってしまう、それだけは嫌だ。
「じゃあいいだろ、俺もお前のこと名前で呼ぶから、なぁ怜ちゃん?」
わざとらしくニヤリと笑って言うものだから、恥ずかしくなって顔を背けた。
ずっと可愛いと思い続けてきたけど前言撤回、目の前にいる先輩は苛立ちを覚えるくらいにはかっこいいかもしれない。
20131231
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