「黄瀬、黄瀬、起きて」
「ん、あとちょっと、」
「いいから起きろってば!」

バチン、といういい音と共に頭に痛みが走って、俺は飛び起きた。
覚醒仕切らない頭で周りを見渡せば裸の怜さんと裸の俺。そんでもって2人ともベッドの上。ぼーっとしていた頭が一気に冴えていくのがわかる。俺のベッドで、俺の想い人と俺とが裸でいるなんてつまりはそういうことじゃあないのか。サァっと血の気が引いた。昨日のことを必死で思い出して見るものの、怜さんと酒盛りをしたあとの記憶が曖昧すぎる。夢だったのか、はたまた本当だったのか、わからない。ただ、思うのは、やばいやってしまった、という事の重大さだった。

「怜、さん、あの聞きたいんスけど、その俺らって」
「何?覚えてないの?」
「スンマセン。ぼんやりとしか。」
「まあ、あんだけ酔ってたら当たり前か。あんたいきなり私押し倒して強引に事に及んだんだけど。」
「ええ?!う、嘘」
「この状態で嘘なんて言えるわけないでしょ」

怜さんに言われてあたりを見回せば確かに、と納得せざるおえない状況であった。ゴミ箱に綺麗に収まらずに引っかかっている使用済みのゴムに、床に脱ぎ散らかされた2人分の衣類、ベッドの上には空になったローションと箱から飛び出た新品のゴム。昨晩何が起こったのかなんて一目瞭然だった。ヤってしまったものはこの際しょうがないとして、問題は、

「あーあ、彼氏になんて言おう。」
怜さんには彼氏がいるということだ。もちろん俺じゃない別の人。

「内緒にしときますか?その方がお互いの為だと思うんスけど。」
「そう思ったけどさ、それだとダメな気がする。隠し事するくらいなら別れた方がマシよ。」
「で、でも怜さん何も悪くないじゃん!悪いのは全部俺で…」

思わず、ベッドで裸のまま正座になってた。床に散らばった下着と服をかき集め、着替え始めた怜さんに異議を申し立てれば、話の途中で遮られる。
「そんなわけないでしょ?最終的に流されたのは私。抵抗しようと思えば黄瀬の股間蹴り上げて逃げてたっての。」
「え?!なんスかそれ?!怖すぎでしょ…」

怜さんの物騒な発言に思わず下半身が痛くなったように錯覚して思い切り股を締めた。背筋を這う悪寒がやばい。

「とにかく、彼氏には今日の事話すよ。もちろん黄瀬の名前は伏せとくし、そんな気にしないで。」
「駄目っス」
「え?」

自分でも驚くほどに、言葉が継いで出た。そんなこと駄目だって、女に守られて自分は罪を問われずに生きていくなんて許されないって、ようやくどれほどのことを自分がしてしまったのか理解した。

「駄目だって言ったんスよ!怜さん1人傷つけるわけにいかない。ちゃんと俺も彼氏さんに謝りに行く。」
「そんな、あんたもし殴られたりしたらモデルできなくなるよ?」
ぴたり、と動く手を止め、身体を真正面に向けまっすぐな目で怜さんは俺を見つめた。真剣な声が耳を掠める。俺はそれに応えるように見つめ返す。
「承知の上っスよ…俺はそんぐらいの事をしたんだ」
「馬鹿だね、黄瀬は。私、そういうとこが好きだから昨日、流されてあげたのかも」
ずるい大人ってこういうことを言うんだと思う。流されてくれても、絆されてはくれないってそういうことなんスよね。1日身体を奪えたとして、俺は一生怜さんの心を貰うことは不可能で。
「俺はあんたのそういうっ…畜生、怜さんの彼氏がいい人じゃなきゃ、奪ってやったのに」
「私の選んだ男が素敵じゃないわけないでしょ。…ごめんね、黄瀬」

泣きそうな顔で怜さんが俺を捉えるから、こんな顔させたいわけじゃないのにもっと困らせる言葉を口から滑らせてしまった。

「好きです、怜さん。あんたが好きだ。ずっと、ずっと前から、あんたと初めて会ったときから好きだっ…」

溢れ出した言葉はもう、止められなくて、どうしようもなかった。

「うん、知ってたよ。知ってて気づかないフリしてた。最低な女ね、私」
「そうっスね…最低だ、俺もあんたも」



俺らが犯した過ちは結局これっきりで、しばらくして怜さんは彼氏さんと結婚した。謝りにいったあの日そりゃあ揉めはしたけれど、怜さんの彼氏さんは殴る事はしないで最後には俺の肩にぽんと手を置いて困ったように笑っていた。すごく、優しい人で、それは前から知ってて、でも改めてそれを突きつけられた。こんな人と俺とじゃそれこそ天と地くらい差があるだろって1人で泣いた。人は俺がイケメンだ何だって言うけど、顔が良くたってそれがなんだ。スポーツができたってそれがなんだ。俺に無いものう持ってるやつなんてたくさん居る。

「結婚、おめでとうっス、怜さん」

初恋は実らない。





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昨年夏に描いたまま上げ忘れていた作品です
20160606

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