高校を卒業して、早2年。俺は大学に通う傍らまだ、モデルをずるずると続けていた。別にモデルが嫌いなわけじゃない。やり甲斐も感じる。ただ、毎日が平凡すぎて、バスケをしているときのような刺激的な感覚はそこにはなかった。





「黄瀬?」

たまたま仕事帰りに街を歩いていたら誰かが声をかけてきた。帽子を深く被ってサングラスをかけ、それでもって辺りは既に暗い夜だというのにだ。普通気付かないと思うんだけど。また熱狂的なファンか何かかとため息をついた。営業スマイルでもプレゼントして逃げようかと考えて声をかけてきた主の方へ振り返ったときだ。そこには高校の頃の先輩がいた。

「怜さん?!」
「やっぱり黄瀬だ!久しぶりだね、元気?」

久しぶりに会った怜さんは、相変わらず笑顔が眩しい方だ。なぜか、とても胸が暖かくなった。スーツ姿の彼女を見るに、バリバリの社会人らしい。こんな遅くまで仕事なんてブラック企業なんじゃないっスか、先輩...!と心の中で心配とかしてみる。

「もちろんスよ!」
「嘘。疲れた顔してるよ大丈夫?」

疲れてる怜さんに余計な心配をかけたくなくて嘘をついたら逆に心配されて驚いた。まさかバレるなんて思ってなかった。彼女の洞察力というのはマネージャーをやめた今でも健在らしい。

「やっぱバレたっスか?」
「泣きそうな顔しないでよ、そんな顔させたくて言ったわけじゃないし。...話くらい聞くよ?」

正直、そんな風に俺を甘やかしてくれる怜さんの優しさにすごく嬉しくなって、さっきまで胸につっかえていたモヤモヤとかどうでもよくなった。

「じゃあ、ちょっと聞いて欲しいっス」

でも俺は彼女の優しさに甘えてしまうのだ。





「怜さぁん。ほんともう無理っスよぉお」

数時間後、怜さんと居酒屋に入った俺は個室の座敷でベロンベロンに酔っていた。そんな俺の話を笑いながら聞いてくれる目の前の彼女は「流石に飲み過ぎ」と呆れ顔だ。

「何のために生きてるんスか、俺って」
回らない頭でそう彼女に問うた。
「黄瀬はさ、モデルやめたいの?」
「そうじゃなくて...!」
「別にやめたいわけじゃないでしょ?黄瀬、最近仕事三昧だったんじゃない?たまにはストレス発散した方がいいよ。笠松呼んであげようか」

突如、怜さんの話に笠松先輩が出た。別に笠松先輩は好きだし、たまにはバスケしたいって思ったけどイライラする。怜さんの口から笠松先輩の名前が出るってことは少なからず連絡をとっているのだ。それに比べ、俺は怜さんと今日まで半年以上連絡をとっていなかった。もっとこまめにとっておけばよかったと、後悔。

「...怜さん。俺ともっと会ってくれないっスか?」
「えっ?」
「よくわからないんス。だけど、怜さんといると悩んでたことが嘘みたいに晴れ上がって、明日も頑張ろうって思える。だから、ね?」

そういったら「馬鹿じゃないの」なんて言って怜さんが笑う。これは了承してくれたということでいいんだろうか。

でもこれでやっと、あなたとの距離を縮められる。


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黄瀬ハッピーバースデー!
20140618


 

 

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