幼なじみ、なんて形ばかりで。数年間まともに話してもいないそんな関係を私と福井健介は続けていた。

私はうまれも育ちも秋田で、福井健介は小学校低学年のときにこっちに越してきた都会人。周りが田んぼに囲まれていた私の家の隣に福井健介の家は建った。田んぼを埋め立てて更地になり、枠組みができ、家が建ち、そして引っ越しトラックがきた。それを心待ちにしていたのは同い年の男の子がいるとお母さんに聞いたからだ。それは私にとって初めてできる幼馴染だった。
出会った当初はそれこそ兄弟のように仲がよかったのに、小学校高学年になるころにはお互い思春期を拗らせて自然と疎遠状態になった。あれから幾度となく季節が巡り、時とは早いもので私たちは高2に進級した。





「怜ー?バレー部のミーティングあるから体育館の前で待ってて」

「りょうかーい」

友達の言葉に短い返事を返す。友達はバレー部で、今日はどうやら新入部員と合同での初めての部活らしい。とは言ってもミーティングだけで15分もあれば終わるらしく、私は体育館前で待つことになった。

それにしても体育館でボールの音がするのは気のせいだろうか。気になって扉を少し開けてみる。奥ではバレー部がミーティング中。手前では男子バスケ部が練習中だった。

通りでボールの音がするわけだ、と一人納得して扉を閉めようとしたときだ、バスケットボールが開けていた扉の隙間を転がり私の足元へ来た。

遠くからバスケ部員が走ってくるのが見えて、私はボールを拾い上げた。

「わりぃ...!」
「...福井、健介?」
「葉山...」

走ってきた部員は今は疎遠状態の幼馴染で。何故だろうか、彼が私の名字を呼ぶのに違和感を感じた。前までは怜って呼んでくれていた気がする。自分達が勝手に関わることをやめたのに、その一言だけで酷く寂しさがこみ上げた。

「あ、はい、これ...」
「あ、おう、ありがとな。...なあ」

福井健介が何か言いかけたとき、体育館から「福井、早くしろー!」と言う声が聞こえた。

「あ、やっべ...葉山今日ちょっとだけ話さねえ?あと30分くらいで休憩入るから。」
「えっ...えっと、わかった。」

そう返事を返したら、福井健介は体育館の中へ駆けていった。思わず、わかったと言ってしまったけれど、どうしようか。幼馴染と言えどもここ数年はまともに話してないし、最早クラスメイト以下だ。それに、何故今更私と話したいと思ってくれたのだろう。

「とりあえず待とう...」
そんな声が誰もいない体育館前に響いた。




あれから数分後に体育館から出てきた友達に急な用事が入ったと断りを入れて、私は尚も体育館の前で待っていた。いくら春と言えどそろそろ6時。肌寒さにぶるり、と体を震わせた私は自らの体を腕でで抱きしめた。

そんなときだ、キィと体育館の扉が開いた。
パッとそっちを見ると、ようやく福井健介のお出ましだった。

「待たせてわりぃ。寒かったよな。」
「全然、大丈夫」
さっきは突然だったから気づかなかったけど改めて福井健介の声を聞くと、昔より幾分か低くなったのがわかった。身長もいつの間にか越されていて、その分時を感じた。

「あ、葉山って、寮だっけ?」
「うん、そーだよ」
「んじゃあ寮まで送ってくから歩きながら話そうぜ。」
「え、でも練習...」
「監督に了承貰ったし大丈夫だって」
少しびっくりした。でも私の為に態々了承貰ってくれたとか、嬉しかった。

私たちは、寮までの道を2人で歩いた。

「なんか、葉山と話すの久しぶりだな。」
「そうだね、6年ぶりくらいかな...?」
「そんなに話してなかったのかよ、俺ら。幼馴染なのにな」
暗くてよくわからかったけど、そう言った福井健介は苦笑いしていたような気がした。

「昔は何やるのも一緒だったのに、不思議だね。」
「そうだな。...怜」
「え?」
「また、名前で呼んでもいいか」

福井健介に名前を呼ばれたら、すごくホッとした。さっきまでの違和感は綺麗に無くなってピッタリとハマったピースみたいにしっくりくる。

「はぁ?ちょ、お前なんで泣いてんだよ...!」
「あっ...」と小さく声が漏れる。頬に手を当てたら確かに私は泣いていた。


「ごめん、福井...健ちゃんが名前呼んでくれたらなんでか、涙出ちゃった」
泣いているのに心はすごく満たされて、幸せな気持ちだ。

「怜はなんも変わってねーな」
そう言って笑って、私の頬に伝う涙を拭ってくれる。

「健ちゃんも全然変わってないね」
なんだかんだ言って優しいとことか。
「はあ?よく見ろよ、怜よりタッパでっかくなっただろ」
まだ身長気にしてるとことか。

「そうだね、かっこよくなったかもね」
私たちの時はまたゆっくりと動き出した。

20140522


 

 

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