「ゴミ出し、サボらずにちゃんとしとくんだった。」

そう嘆いたのは社会人生活も2年目を迎えた私、葉山怜。大人である。ほんと自分でも学習能力がないとつくづく思う。

部屋の窓から外を覗くと先程まで曇りだった空からポツポツと雨が降りだしていた。

そして目の前には中身の詰まったゴミ袋。

今日を逃すと来週までゴミは出せない。いくら1人暮らしで量は少ないとはいえ、2週間分も溜まったらさすがに結構な力仕事になることは目に見えていた。

「しかたない、いくかぁ…」
ため息混じりにそう呟いて、恨めしそうに空を睨んでやった。くそう。

無情にも自業自得だと言わんばかりにしんとした室内に雨音が響く。

「よいしょ、」

目の前にあったゴミ袋を持って玄関に向かう。下駄箱から慣れ親しんだ靴を選んで手早く履いたらゴミ袋と傘片手に家を出た。

エレベーターのボタンを押して待っている間にふと視線を空に向ければ先程よりも幾分か雨足が強まったような気がしてげんなりした。最悪だ。今度からは面倒がらずに早めに出しにいこう。
そう決意したのは今年に入ってから何度目だったか。

エレベーターで1階に降りてマンションから出る。持っていた傘を開いて近くのゴミ置き場まで急ぐ。

ん?

異変に気付いたのはゴミ置き場まであと数メートルというところまで来たときだった。

ゴミ袋の間に埋まるようにして倒れている男性を見つけた。

リーゼントと思わしき髪型は雨で崩れ、ところどころ殴られたような痕もあった。確実に喧嘩か何かがあったのだろうけど、

「えっ、しんでないよね…」

ぴくりとも動かない彼を見て咄嗟に胸が上下に動いていることを確認した。よかった、動いてる。ホッと胸を撫で下ろした。のはいいのだが。

「このままほっとく訳にはいかないよね…」

見た目からして素行が悪そうな危ない人に見えるのであまり関わりたくはないのが本音だが、このまま放置しておくのも胸くそ悪いというものだろう。私にも良心というものがあるのだ。

「さて、どう運びましょうか…」

それを考えてなかった。

雨も強くなってきているし、とりあえず屋根のあるところに移動してあげたいが、あいにくと私はこんな巨漢を運べるほどの力は持っていない。

「ねえ、君大丈夫?」

未だぴくりともしない彼の肩を控えめに揺さぶり、声をかけるも反応はない。気絶しているだけなのだが死んでいるようにも見えてしまって心臓に悪い。

それよりもいま彼の肩に触れたときの冷たさに驚いた。このままでは凍死してしまうのではないか。

「考えても仕方ないし、やってみるか。」

彼の腕を掴んで背中に担ぐと思いっきり踏ん張った。もうこの際濡れるのを気にもできないので傘は端に退けておく。また後で取りに来るから、待っててね。お気に入りの花柄の傘なのだが背に腹はかえられない。持てないものは持てないのだ、盗まれないことを祈る。

「ふんっ!!!」

ぐったりして意識のない巨漢リーゼントくん(失礼かもしれないが名前がわからないのでこう呼ばせてもらうことにする)を起こすだけでも一苦労で目と鼻の先だと思っていたゴミ置き場からマンションまでがそれこそ日本とブラジルぐらいの距離に感じてしまう。こんなに遠かったっけか。

すでにびしょびしょになりながらも巨漢リーゼントくんを運んでいく。身長が私より何十cmも大きいので足を引きずってしまうのは許してほしい。というか腰が早くも痛い。重すぎる。何で私は筋肉の塊みたいな人を雨の中運んでるんだろう。…何かの罰ゲームか。



行きの何倍もかけてようやく帰還した私は玄関に崩れるように倒れ込んだ。

「つ、疲れたああああ」

それでも嘆いていれないのが現状だ。とりあえず脱衣場からバスタオルを持ってくることにする。そのあとソファーまで彼を運んで、怪我の処置してご飯作って…。

何でこんなにハードなこと課せられてるのか。泣きたい。いや、1人の命を救えたならよしとしよう。いや、まだ救えたとは言えないかもしれないけれど。


なんだかんだと、世話しなく動いて早くも1時間と30分。思っていたよりも彼の傷が浅かったということが不幸中の幸いかもしれない。
とりあえず彼が起きたときに何か温かいものをとシチューも用意したし、傘も取りに行った。今日私高校時代よりよく動いたかもしれない。このズボラな私がだ。私ってやればできるんじゃん。

自画自賛してふふふと笑っていたら微かに声が聞こえて巨漢リーゼントくんの近くまで移動する。

「…いてっ、ここは…どこだ…」

ぱちっと目が開いてくれたのに安心した。目覚めてくれなかったらどうしようかと思っていたのだ。

「大丈夫?」

「てめえ誰だ…」

私を視界にとらえた途端彼は殺気放った目でこちらを睨み付けてきた。思った通りかなり危ない感じの人っぽいが甲斐甲斐しく世話してあげた私には猫が威嚇しているぐらいのもんだ、拾ってきたときから腹は括っていたから今さら怖がったって仕方がない。我ながら図太い性格だ。

「てめえとは失礼だね、巨漢リーゼントくん。ここは私の家。ゴミ置き場で倒れてた君を運んで怪我の手当てをしてあげた。」

そこまで説明してあげたら彼はキッとあげていた目尻を緩めた。すごい眼力だったから緩めてくれて安心した。目で人を殺せそうってああいうのをいうんだと思う。

「んじゃあ、あんたは、えっと、俺を助けてくれたってことかよ」

「そゆこと。物分かりが良くて助かるよ。」

「…おう?」

私の言ってることを半分くらいは理解してくれてるみたいでとりあえずよかった。話も通じないような人じゃなくて。

「おっと、自己紹介がしてなかったね。私は葉山怜」

「俺は大和田紋土だ。助かったぜ、ありがとな。」

どうやら巨漢リーゼントくんは大和田紋土くんと言うらしい。


この男拾いました。
20131207

 

 

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