ピーターパンの行方について
「康くん!ずっと一緒にいようね!」
「当たり前だべ!怜っち」
幼い頃隣に住んでいた2歳上の彼、葉隠康比呂くんこと康くんは彼が小学校を卒業するとともに転校した。当時は歳は違えどずっと一緒にいると思ってた彼との突然のお別れに号泣したのが懐かしい。
「怜っちすまん、ずっと一緒に居れなくて。また遊びに来るべ!」
寂しそうにそう約束したあの日からはや6年、私は高校に入学した。あれから私は彼に一度もあっていない。会いにくるとか抜かして彼はきっと1週間後には綺麗さっぱり忘れて新しい第一歩を踏み出していたことだろう。私ばかり未練がましく思い続けているなんて虚しくなる。
「康くんのことなんて忘れて高校こそは彼氏つくろ…」
そう、私は彼に思いを寄せていたのだ。もう10年以上も。
校長の祝辞から始まる退屈な入学式を終え、空き時間に隣のクラスへ向かった。隣のクラスには中学時代からの親友が私と同じこの高校へ入学したのだ。
親友の名前を呼ぶと私が立っている教室の入り口の方へ近づいてきた。
「怜じゃん!そっちのクラスはどう?」
「うん、普通かな。ノリのいい子ばっかりだよ。そっちは?」
「こっちも普通だよ…あ、でも1人だけ2年も留年してる男子がいるんだけど…」
「2年?!それはまた…」
2年も留年できるなんてある意味才能ではないか。どんな人なのか逆に気になってきた。
「あ、あの人だよ!」
親友の指差す廊下に目をやった。
「えっ……康くん…?!」
そう、見間違えるはずがない。あの四方八方に跳ねたドレッドヘアーに優しい雰囲気を醸し出す目。若干髭が生えているのが私と彼との別れの歳月を物語っていた。それでも彼は正しく私が探し求めた葉隠康比呂だろう。
「…怜っち…?」
彼の方も私に気づいたのかかつてより低くなった声音で私の名を静かに呼んだ。…次の瞬間に衝撃。
「会いたかったべ、怜っち〜!」
ガバッと抱き締められて康くんの胸元が視界いっぱいに広がる。私と同じぐらいの身長だったのに今の康くんは私より頭1つ分くらい大きかった。
「ちょ、康くんはなしてっ!」
先ほどまで忘れるって言っていたのに私の頭は既に康くんでいっぱいだった。同時に私にとってどれだけ彼の存在が大きいかというのがわかってしまった。
そう簡単には諦めきれないのだ。
「そういえば康くんさ、会いにくるって言って全然こなかったよね?」
「あっそれはその、あれだべ、新生活が忙しかったというか…」
「…忘れてたって素直に言ってくれればいいのに。」
そう言った私はうまく笑えてなかったと思う。ほら、やっぱり忘れてたんでしょって心の中で思った。不思議と約束を破られたことに対する怒りは沸かなかった。それよりも彼にとって私がその程度の人間だったと、会いにくる価値のない人間だったと、言われている気がして苦しかった。
「…っ違うべ、違う!ただなんというか恥ずかしかったというか、会いに行っても迷惑なんじゃないかってずっと思ってて。…だから会いに行けてなかったんだべ、ほんとに悪かったと…」
そう言って私を見た目は少し潤んでいて、困ったような顔をしていた。嘘じゃないと思う。彼は不器用で嘘をついてもすぐばれてしまうから。
ほっとした、涙が出そうで必死に下を向く。
「そっか、会いたかったのは、私だけじゃなかったんだね」
「もちろん、俺も会いたかったべ!!」
顔を上げたら温かい笑顔が飛んできた、その笑顔は昔のままだ。
「今度は私が会いに行くよ」
「怜っちなら大歓迎だべ」
これからはいつでも会えるのだ、しかもまさかの同学年。この恋もまだ諦めなくてもいいかもしれない。
今はまだ幼なじみのままで。
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2人の世界作られてまったく会話にいれてもらえない友人。
20131119
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