とろけた銀河
※時間経由バラバラ
不思議と温室に来ると安心する。
それはこの閉鎖的な空間の中での唯一"外"が感じられる場所であるからかもしれない。
「夜時間に部屋からでちゃった…」
私は罪悪感を感じながらも温室に入った。目の前にはこの世界に存在すると思えないくらい大きな花。でもそれ以上のあり得ないことが起こっている今なら存在してもおかしくないかもしれない。
この花は危険らしいので近づくことはしないで入り口付近の花壇の石の部分に腰をおろした。
「なにをしてるんだね?」
「っ!?」
後ろから突然誰かに声をかけられてバッと振り向く。そこには相変わらず白の学ランを来ている石丸くんがいた。
「石丸くんか、びっくりした…」
そう言ってほっと息を吐くと石丸くんはどこか慌てたように口を開いた。
「す、すまない、驚かせてしまったか。そんなつもりは無かったのだが…」
「いいの、いいの!夜時間に出歩いてた私も悪いしね。ところで石丸くんはどうしてここへ?」
「ランドリーで洗濯をしていたら夜時間が少し過ぎてしまってだな、急いで部屋に帰ろうとしたら怜くんがどこかへ向かっているのを見て気になったので追ってきてしまった。」
なるほど、見られていたのか。いや、別に見られて困ることはないけど堂々とルールを破っているところを石丸くんに見られてしまったことに対する申し訳なさといえばいいのか…。
何も言わない私を心配してくれたのか石丸くんは私に再度声をかけてくれた。
「大丈夫か?」
「あ、うん。それより夜時間に出歩いてごめんなさい。」
正直に謝ったら石丸は驚いたように目を見開いた。
「怜くんは何か出歩かなければならなかった理由があるのではないのかね?」
まるでお見通しだと言わんばかりの質問に今度は私が驚いた。流石周りをまとめることができる人物は一人一人をよく見ていると思う。これは石丸くんの努力の賜物だろう。でも私がここに来た理由なんて彼が聞いたら呆れてしまうほどのくだらないことだ。
「笑わないで聞いてくれる?
…星を見に来たの。」
石丸くんの様子を伺いながら私は温室へ足を運んだ理由を話した。私は星が見たかった。
「星を…か?」
私が目を上に向ければ石丸くんも釣られて引き寄せられるように天を見た。
人工的に作られた空なのかはたまた本当に外の世界に繋がっている空なのかなんて私達には見分ける術がない。でもやっぱりなぜか安心するのだ。
「たまにね、無性に星が見たくなるの。星を見ると安心するっていうか、私にとっての希望。」
石丸くんは空から視線を反らして私を見た。そして一言、なぜだ?と問うた。
「昔の人は星が地図代わりだったでしょう?空を見上げれば無数の星があってそれが導いてくれるから暗闇でも迷うことなく進める。」
「ここから出る方法なんかまだ全然わかんないけど、不安になったとき星を見ればきっと私達を正しく導いてくれる、そんな気がするの。」
そこまで話して石丸くんに笑いかけたら素敵な話だな、と笑い返してくれた。
「いまは春だけど夏になったら夏の大三角とか蠍座とかすっごいきれいでね?」
だから、
「…石丸くん、みんなで一緒にここから出ようね。」
「ああ、もちろんだとも。ここを出たら僕は星の勉強でもしようではないか。」
―そして夏になったら星を見に行こう
嬉しい誘いに再び笑って空を見上げる。そして私は今日もまた星に祈るのだ。
20131111
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