白馬に乗れない王子様
いつものように放課後、大和田くんと2人で帰路につく。
大和田くんは私より2歳年上だ。私は大和田くんのことが小学生のころから好きで何度も何度も想いを告げてきたのに彼ときたら。全部拒否。むかついたから3ヶ月くらいは口を聞かなかった。そのときも結局は私の方が寂しくなったのだけれど。
他に好きな人がいるとかだったら諦めもついたかもしれないが理由を聞いたら「餓鬼に興味はねえ」らしい。信じられない。彼にとってはたった2歳年下も子供らしい。だったらずっと私が彼の恋愛対象に入ることはできないじゃないか、そう思った。
それから、私が大和田くんを追っかけて同じ高校に入って半年ぐらいして漸く私の想いが通じたのか大和田くんが折れてくれた。付き合うことになったのだ。つまり私の粘り勝ち。本当に嬉しかったし、今でも実感が湧かない。
というのが私達のエピソードなのですが。
「大和田くん!」
「あぁ?どうかしたかよ」
彼の態度が全然変わらないのが最近の悩みだったりする。
「手繋いでもいいですか!」
「あぁ?…んでだよ。」
私のお願いに対して不満そうな声を漏らす大和田くん。
「繋ぎたいからだよ!」
「そんな理由で繋がねえよ」
そういって彼は踵を翻して前を歩いていった。私はその後ろを追う。
ほらいつもこうだ。きっと彼はまだ私を子供だと思っている。そりゃあいくら私が頑張ったところで2歳年下なのには変わらないかもしれないが仮にも彼女に昇格したんだからそれなりにラブラブしたいと思うのが普通じゃないのか。
…それとも、私だけなのか。
彼は単なる同情で私と付き合ってくれたのかもしれない。所詮子供のお遊びだと思ってるのかもしれない。こっちは何年片思いしたと思ってるんだ。お遊びじゃなく本気にきまってるのに。
「大和田紋土のばか野郎!」
立ち止まって、数メートル先を歩く彼に大声で言ってやった。彼は直ぐ様振り返って睨み付けてきた。
「てめ、喧嘩売ってんのかよ」
ドスの聞いた声、そして睨み。彼女…いや女の子に対してする態度じゃないと思う。カッとなるといつもこうなることを知っているし本気で怒ってる訳ではないことを私はわかっている。彼は不器用な人だ。怖そうに見えるけどほんとはすごく優しい。愛犬は羨ましいほどに可愛がられていたし、亡くなったときは彼は泣いていた。初めてみた涙だった。
「そうだよ、売ってる!!喧嘩も売ってるけど一緒に愛も売ってるから!」
さっきより大声で叫んでやった。私ってば何を言っているんだ恥ずかしい。そう思っても口から溢れた言葉は止まらない。
「私のこと女として見てないなら振ってくれてかまわない。同情いらない、私は本当の愛しかいらない。」
我ながら我儘だと思う。彼を好きになっていく度自分が貪欲だと言うことに気づかされるのだ。彼は驚いたようにこっちを見た後、ため息を吐いた。
「なにいってんだおめぇ…」
「えっ、えっ、だって大和田くん同情してつきあってくれたんじゃないの?だから手も繋いでくれないんでしょ?」
わかってるんだ、私になんて興味もないこと。自然と声は震え視線は足下へ向く。最後ぐらいちゃんと向き合いたいのに、なんでできないのだろうか。
「…―あっははっ」
張り詰めた空気を最初に壊したのは大和田くんの笑いだった。どういうことだろう。なぜ彼は笑っているのだろう。私と別れるのがそんなに嬉しいんだろうか。そうだったら悲しい。
でも大和田くんの口から出てきたのは予想していた言葉と違った。
「嫌いなわけねえだろうが。俺だっててめえのこと愛してる。嘘じゃねえぞ。」
そういった大和田くんは照れくさそうにがしがしと頭を掻いて顔を反らした。
キライナワケナイ?アイシテル?ウソジャナイ?
え?
「ええええええええ??!!」
「うるせーぞ、黙っとけ」
パシッと腕を捕んでずんずん前を歩いていく彼に必死で縺れる足を動かしてついていく。
頭がごちゃごちゃで理解できてないけど。これだけはわかった。私は案外愛されてるのでは?
強引ではあるが手も繋いでいるし(実際は腕だが)、愛してると、そう言ってくれたのだ。むずむずと胸が痒くなって口端が緩む。
「お、大和田くんもっかい!」
「……。」
「もう一回お願いします!」
「だぁあ、もう、うるせえ、お前なんか好きじゃねえ!」
大和田くん、耳真っ赤にして言われても説得力ないです。
「私は大好き!」
20131225
▼