そろそろ本気出します



「きーよーたーん!」

「なっ、怜くんその名で僕を呼ばないでくれとあれほど…」

彼は必ずこう言う。でも彼の顔は言葉に反して赤いのだ。つまりはそう、照れている!

彼を可愛いと思い始めたのは学食に行ったときだ。いつものようにカレーうどんを食べようと券売機に並んでいた私。前に並んでいたのがきよたんだった。

「こっち、…いや、こっちの方が…」

彼は迷っているのか券売機を前に顎に手を当てぶつぶつと何かを呟いていた。

「ねえ、君。迷ってるの?」
最初はただ早くして欲しかったから声をかけた。

「ん?あぁすまない…学食に来るのが初めてでな。これだけ種類があると何を食べようか悩んでしまうな」

彼はそう言って苦笑いした。

「じゃあこれにしときなよ」

私が指差したのは安定のカレーうどんだ。学食のメニューのなかでも比較的安く、案外ボリュームもある。それに何より美味しいというのが私の言い分だ。

「カレー、うどん?何故これなんだ?」

「美味しいからだよ」

私は即答した。

「そうだったか!じゃあ僕はカレーうどんを食べよう!感謝するぞ、えっと…」

「怜。葉山怜だよ」

「僕は石丸清多夏だ、改めてありがとう葉山くん!」

そう、この瞬間の太陽のような温かさと犬のような人懐っこい笑顔にきゅんと来たのだ私は。可愛さで悶え苦しむ私にきよたんは心配そうにこちらを見てきた。その顔は純粋そのもので怜さん罪悪感がやばいです。

「だ、大丈夫かね…?」

「大丈夫だよ、きよたん!」

ほんとは全然大丈夫じゃないっす、可愛すぎて胸が痛いです。

「ききき、きよたん……?」

「うん!清多夏くんでしょ?だからきよたんで!」

「あの、できれば他の呼び方でお願いしたいのだが…」

「だが断る!これはもう決定事項だから!ごめんね!」

きよたんはきよたん呼びを拒否していたが暫くはきよたんでいこうと既に心で固く誓っていたので。


こうして数週間たった現在もきよたんとの交流は続いてきよたん呼びの拒否も続いている。

なんできよたんって呼ぶか彼は知らない。普段馬鹿みたいな言動ばかりして周りから笑われていても私は女なのだ。ほんとは清多夏くんと呼んでみたかったのだが初めからきよたん呼びは出来ていた癖に変なとこで一歩が踏み出せていないというわけで。

なんて臆病なんだ私!今年ももうすぐクリスマスが近づいて来てるというなに!
クリスマスぐらい好きな人と過ごしたいですよ、ほんと。

というわけで、その第一歩としてやはり名前呼びはクリアしておきたい。

「きよたん!!」

意を決してきよたんを呼ぶ。

「ん?なんだね怜くん」

「うん、あの……き、き、今日もいい天気ですねっ!」

「今日は曇りだと思うのだが…」

やってしまった。涙が出そうだ。いっそのこと笑ってほしい。なぜこうもうまくいかないのか、人生って難しい。

だけれどここで諦めてはいけないと思う。ということで気をとり直して。

「あはは、そうだね、それでね?その、き、清多夏くん!」

「ああ?」

んん?あれ?…どうしようもしかして気づいてないのか?こんだけ勇気を振り絞った乙女の言葉に効果なし。

こうなったらもうこれしかないのではないか。

「っ…清多夏くん!って呼ぶから!これから!」

勢いで言ったのは良しとしよう。だけどこのあとのこと何も考えてなかったよ!やばいよ!

それにしても清多夏くんさっきから何も発してないけどどうなってるの?

私は恐る恐る顔をあげてみた。

「…っ」

そこにはまたもや顔を赤く染め上げた清多夏くんが。パクパクと開いたり閉じたりしている口が餌を求める鯉みたいだ。 これはもう可愛いどころじゃなくて犯罪レベルだと思う。

こんな清多夏くんが見れるなら本望だ、頑張った甲斐があったというもの。

「…そろそろ本気出さなきゃね」

ぼそりと呟いた一言は誰に聞かれることもなく空気に溶けた。


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見事に撃沈。ギャグはやっぱり苦手です。
20131123


 

 

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