ゆびきり
※社会人
「私みたいな子貰い手がなくなっちゃうんだって」
それは我儘な私にお母さんがよく言っていた言葉。
「貰い手?」
「うん、結婚してくれるひとがいないの」
私は眉を下げて半ば諦めたように目の前の彼に笑った。
「じゃあ僕と結婚しよう!」
彼はそんな私の気持ちを吹き飛ばすくらいの眩しい笑顔でそう言い切った。
「ほんとに?約束だよ、きよくん!」
「約束のゆびきりだ!」
差し出された指は私の出した指と絡み合って上下に大きく降られた。
「うん!」
―それはありがちな子供の頃の約束。
それから小さかった私達も社会人になった。
清多夏くんの家で夕食を食べて、今はソファに座ってお互いに寛いでいる。
「あのころのこと清多夏くんは覚えてる?」
「あの頃?」
ふと、幼い頃の約束を思い出したのだ。いや、実際はあの約束を忘れたことは1日たりともなかったと思う。
あの日のことを清多夏くんは覚えているのだろうか。
「ほら、子供のときに結婚しようねーって話したやつ。」
「けっ…!?…もちろん覚えているが」
結婚という言葉に反応してしまうあたり私達も大人になったのか。高校生のころは思い思いに付き合っていたから結婚なんてあまり深く考えてなかったと思う。
「じゃあそろそろ結婚してもいいころじゃない?8年もお付き合いしてるのに」
高校の頃に付き合い始めお互いに別々の大学に行ってからもその関係は続き、そして今に至る。1年で結婚する人も今時珍しくないのにそこに到達するまでに8年もかかるなんて全くもって私達らしいというかなんというか。
こういう時は男の方が言い出すのを待つ方が女の子らしいだろうが清多夏くん相手にそれをしていたらきっと死んでしまう。彼の初さもここまでくると考えものだ。
「実は…」
「うん?」
「ずっと渡そうと思ってたんだ。」
彼がそう言って差し出してきたのは手のひらサイズの小さな箱。
えっ、何で?嘘でしょ?
私は柄にもなく驚いて開いた口が塞がらない。彼が結婚のことをこんなにも考えてくれていると思わなかった。とんだサプライズだ。
「僕と結婚してくれないか?」
私を真に見つめて清多夏くんがそう言うもんだから、胸が苦しくてでも幸せで温かくて。溢れ出た涙で視界がぼやけた。
「遅いよ、馬鹿。…よろこんで!」
そう言って私は清多夏くんの胸に思いっきり飛び込んだ。
優しく笑った彼は泣いている私を痛いくらいに抱き締めてくれた。
20131224
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