会いたくなる魔法の呪文



※社会人

清多夏と私の関係は7年経った今でも相変わらず男と女の関係を保っていた。
高校時代はそりゃあ今より若かったし純粋だった私も今じゃすっかり社会人。

「おばさんになっちゃったなぁ…」

青春の日を思い出して懐かしむ余裕なんて普段はないけれど。それでもふとしたときに思い出すのはやっぱり同級生。さくらちゃんや響子ちゃんは元気だろうか、葉隠くんは生きてるだろうか(この人は本気で心配だったりする)。

そして、清多夏は大丈夫だろうか。

「もう1週間か…」

実は清多夏、1週間前に出張で北海道まで行ったのだ。超高校級の風紀委員長はいまやアパレル関係の会社員。しかもかなり有望株らしい。さすが清多夏だ。

東京に1人残された私はというと仕事に手がつけられない状態だ。別に同棲してたわけでもないし、1週間会えないときもいくらでもあったのに。

「気の持ちよう、だよねぇ」
いつでも会える距離にいるのといないのではやはり違う。どんなに会いたいと思っても1週間後にしか会えない。 会いたいときに会えないってこんなに辛かったんだ。


そんなときだ。初期設定のままのシンプルな着信音が私のスマホから聞こえてきた。


画面を見ると清多夏の文字。どうしよう、思いが通じたのかも。これだから清多夏は好き。なんて惚気そうになるぐらいにはこの着信が嬉しかった。

切れてしまう、と急いで通話ボタンを押して耳に当てると聞きなれた声が聞こえてきて自然と口角が上がった。

「―もしもし、怜くんか?僕だ。」

「もしもし、私よ清多夏。こんな時間に電話なんて珍しいね」

時計は深夜12時過ぎを指している。普段の彼なら寝ているか、起きていても電話してこないだろう。

「ああ、すまない寝ていたか?なぜか無性に、声が聞きたくなってしまってな。」

彼の言葉に愛しさを覚える。

「ううん、大丈夫起きてたよ。私も声が聞きたいな、って思ってたところ。」

「そうか、そうなら嬉しいが。」

それから今日の夕飯がーとか、仕事の調子は?とか他愛もない話をしていたら時刻は1時を回った。

「ふぁ…もう1時だね。」

「もうそんな時間なのか…怜くんと話していると時が経つのが早く感じるな。」

無意識だろうか。たまにこうやって口説き文句を言うのだ。この天然タラシめ…。

名残惜しいがお互いに明日も仕事がある。仕方ない、と割りきっているつもりではいるがなかなかそうも行かない。それは今日に始まったことじゃないので気にしないことにした。


「明後日には帰れるよう努力する。」

「うん。」

「怜、愛してるぞ」

「…ばっ…わ、私も愛してます。」

普段はくん付けで呼ぶ彼がたまに呼び捨てにしてくるときがあるが慣れない。何度言われてもドキドキするし、心臓に悪すぎる。


でもそうやって呼ばれると会いたい、と思ってしまう。今すぐ仕事すっぽかして会いに行きたい。無理なのはわかっているけれど彼がくれる言葉と言うのはそれほどまでに影響力がある。
「ああ、やっぱり会いたいな。」

ぼそっと半ば独り言のようにそう呟くと、ふっとやんわりとした笑い声が電話越しに聞こえた。

「明日」

「え?」


「明日帰ることができたらご褒美をくれないか。」

これだから清多夏はずるい。



20131224

 

 

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