略奪未遂で片思い続行



※大和田くん妹主


昼の休み時間。わざわざ1年の教室から2年の教室へと足を運ぶ。お兄ちゃんのいるクラスまで来ると兄は一番後ろの席に座っていた。私は注目を浴びない程度の声で兄を廊下から呼び出す。

「怜、なんか用かよ。」

「お兄ちゃん!お願いがあるの!私に石丸さん紹介して!」


最近お兄ちゃんとやけに仲のいい人がいる。それが私の思い人だ。
名を石丸清多夏さんと言う。石丸さんと出会ったのは夏休みだ(と言っても石丸さんは私と面識はないのだが)。

石丸さんとお兄ちゃんが夏休みのある日、我が家で勉強をしていたのだ。ありえない。家に友達を呼ぶのもまともに勉強しているところを見るのも小学生以来だった。

同時にわからないと唸るお兄ちゃんにこれでもかと言うほど熱心に何回も何回も教えている石丸さんを見た。この時びびっときたのだ。彼こそが私の運命の人だと。うん、まあ前に出会った人にも同じことを言ってましたがね。もう過ぎたことだから気にしない。

「あぁ?なんで俺なんだよ、自分で会いに行ってこればいいじゃねーか。」

「これだからお兄ちゃんは!全然乙女心を理解してないんだから!」

自分から話しかけるなんて恥ずかしいし、緊張して醜態を晒すのなんて嫌だから頼んでいるのにお兄ちゃんときたらいつもこうだ。昔は強くてかっこよくて、最高のお兄ちゃんだと思っていたのに今では妹の話も聞き入れてくれない。


「どうしたのかね。」

「ひいっ!?」

後ろから聞こえてきた声に驚いた私は可愛いげのない声をあげて面白いぐらいに跳ね上がった。

「す、すまない、驚かせてしまったか?そんなつもりではなかったのだが…」

声の主は石丸さんだった。最悪だ。これではお兄ちゃんに頼んだ意味がない。早々に醜態を晒してしまったのだから。私の顔は石丸さんを見て赤くなったりかと思えば青ざめたり。端から見たらそれこそ百面相だろう。

「おう、丁度よかったぜ兄弟。こいつがお前紹介し「わあああああ」

お兄ちゃんの暴露に咄嗟に叫んだ。果たしてこの行動正解だっただろうか。もうこの際関係ない、何を言ってくれてるんだうちの兄は。それを言ったらこそこそと紹介してくれと頼んだ意味がなくなるでしょうが…。内心思い切り毒づきながらどうしようかと頭をフル回転させる。が、いい案なんてこれっぽっちも生まれてこない。
こうなったら真っ向から勝負に挑むしかない!


「あの、石丸清多夏さんですよね?私、大和田怜っていいます!紋土の妹です!」

「む、そうか、兄弟の兄弟なのか!」

兄弟の兄弟…いや、まあ合っていると言えば合っているので気にしないでおこう。お兄ちゃんも石丸さんのこと兄弟って呼んでたし。

「はい、いつもお兄ちゃんがお世話になってます!」
「いや、こちらの方こそ彼には世話になっている、素敵な兄を持ったな」

石丸さんの言葉に不思議と胸がいっぱいになった。そりゃあ普段はお兄ちゃんに不満を持つことが多いけれど、やっぱり私は兄、大和田紋土が大好きなのだ。自分の兄を誉められて悪い気はしない、寧ろ大好きな石丸さんに大好きなお兄ちゃんを誉められて嬉しい。

「ありがとうございます!」
久々に心の底からの感謝の言葉と笑顔を伝えた。そうしたら石丸さんもにこやかに笑ってくれたのでどうやら感謝は伝わったんだと思う。

「おい、お前ら勝手に空気作り上げんなよ、くそがぁ」

はっきり言うと私はお兄ちゃんが隣に居たことを忘れていた。やばい、と焦って顔色を伺うと何やら顔に熱を集めてきょろきょろと視線が泳ぎまくっていたから恥ずかしかったのか、と一人納得する。照れてる兄なんてレアだ。


「すまない。」

「ごめんなさい。」

私と石丸さんで一緒になって謝ったらお兄ちゃんは私と石丸さんの肩を抱いてしゃねーな!と言って笑ったのだ。

「石丸さんとりあえず、私を友達にしてください」

「友達はなってくれとなるものではないぞ。それにもう友人だと思っていたのだ、怜くん」

「よかったじゃねえか、怜」


にやにやとした兄には少々苛立ったが無視を決め込む。

恋人までの道のりは長そうだが、この関係も悪くない。


20131221

 

 

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