最期にキスと懺悔を
――クワタくんがクロに決まりました――
それは絶望に侵食された瞬間だった。
さも滑稽と言うようにモノクマが笑う中、力が抜けて膝から崩れ落ちた。怜恩くんが、クロ?どうして?
「嘘、でしょ?怜恩くん…!ねぇ、嘘でしょ?!」
固まったままの怜恩くんの方に顔を向け、すがり付くように言った。まだ彼の口から真相を聞いていない。そうだ、彼を信じると決めたのだ。
だけど、
「ごめんな、怜ちゃん」
そんな思いは我に返った怜恩くんの口から放たれた謝罪の言葉で簡単に打ち砕かれた。
でも私は彼を責めることができなかった。
あまりにも彼の彼が真っ青だったこととごめん、ごめんとうわごとの様に呟きながら涙を流していたからだ。
「なんでこんな…」
"舞園ちゃんを殺すなんてこと"この言葉を発するのに躊躇した。確かに桑田くんが殺さなければ逆に殺されていたかもしれない。彼のことだから踏み止まることが出来ずに感情の進むままに彼女を殺してしまったんだ。
「バカだよなぁ俺も」
泣きながら無理に笑う、その光景に酷く胸が苦しくなった。バカだよ、怜恩くんは。自然と涙が伝った。それをきっかけに次から次へと涙が頬を流れ落ちた。
ほんとは、なんで舞園ちゃんの部屋に言ったのかって聞きたかったけど聞かなかった。それを聞いたらフラれると思った。彼が女の子好きなのも知っていたし、時に浮気疑惑も立ったけどそれでも私を愛し続けてくれた、たくさんの愛をくれた。最後の最後まで私は彼にフラれるのを拒んだのだ。彼と離れるぐらいなら、しぶとい女と思われてもよかった。
「…また来世で会おうぜ。今度はもっと立派になってやるからさ…!」
彼は確かにそう言った。とんだロマンチストだ。来世まで待つなんて耐えれない。置いてかないで欲しかった。でもそれしか選択肢がないのだ。もしかしたら他に道があるのかもしれない、でも無力な私にはどうすることもできない。
ただ、また次会えたら今度こそ強くなっていたい、大切な人を守れるぐらいに。淡い願いを胸に宿らせた。
「今度は、貴方を守れるぐらいになっていたい!強くなってやる!」
涙で前が見えなかったけどそんなの最早問題ではなかった。
「…それ女の子の言葉じゃないぜ怜ちゃん」
ただの女の子じゃあ駄目なの。守られてるだけが女の子じゃない。
「そろそろいいかな、お二人さん?」
その声にハッとした。モノクマだ。
そして今一度周りを見渡すと俯いていたり、悔しそうな顔をしている皆がいた。あまりに必死で忘れていた。
「じゃあお仕置きの準備するからちょっと待っててね。あ、桑田くんはこっちだよ、うぷぷ」
ぴょん、と台座から降りたモノクマは大きな扉へ向かった。
彼の方を見た。ほんとに最期なんだ。まだ止まらない涙に反して徐々に冷静になっていく思考にイライラした。
「怜ちゃん」
怜恩くんに名前を呼ばれた。
「好きだ…」
そう言われるや否や、ぐいっと体を立たされて軽く唇と唇が触れた。
最期まで彼は私の欲しい言葉をくれる。彼の言葉に偽りは一切感じなかった。不安に思うことなんて一切なかったのだ。
捕まれていた腕がするっと離されモノクマに連れられていく。
赤い彼の髪が扉の向こうに消えるまでひたすら目に焼き付けた。襲われたのはなんとも言い難い虚無感だった。
「大好き、大好き、大好き、愛してる、…バイバイ」
またね
その言葉はモノクマのアナウンスによって掻き消された。
――えー、みなさん、扉よりお入りください――
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原作との矛盾点が多々ありますが、パラレルとして見ていただけると!
20140104
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