恋文だった紙切れ
私は大和田くんが好きだ。でも告白する勇気はない。彼とは去年クラスで席が近かったことがきっかけで仲良くなった。最初は怖いと思っていたけど話してみると口は悪いけど愉快な人だ。
好きになったきっかけとかは自分でもよくわからない。自然と目が彼を追っていたり、ひょんなことでドキドキしたり。彼が好きだと自覚したら今までつっかえていたものがスルリと抜け落ちたのだ。
でもここからが問題。彼は私のことを多分友達だと思っているし(友達とも思われてなかったら悲しいけど)、この関係を壊したくない。
そして現在の時刻朝の6時30分下駄箱の前にいる。なぜかといえば私は手紙を書いてしまったのだ。所謂恋文。ラブのレター。
普通は屋上に来てくださいとか、好きですとか書いて名前まで書くんだろうけどそんなことできないから好きです。の文字だけ。単なる自己満足だ。こんなもの渡しても名前が無いんじゃ気味悪がられるだけだとわかっていてもなにか形にして踏ん切りをつけないといつかこの思いがあふれでてしまいそうで。
私は辺りに誰もいないことを確認して大和田くんの下駄箱に手紙を突っ込んだ。そして全力ダッシュで逃げた。罪悪感とかそんなものを感じもしたがこれでよかったのだと心で繰り返した。
私は結局教室には行かずに屋上に移動した。きっと今教室に行ったところでバレる確率は少ないとはいえ登校してきた大和田くんに会ってしまうだろう。それならHR直前までここで待機していれば問題ない。
「なんで入れちゃったんだろ」
すでに手紙を入れたことに後悔しながら瞼を閉じた。
「ん…」
体が揺れる感覚で目が覚めた。目を開けると視界に入ってくる日の光に思わず眉をひそめた。
「やっとおきたのかよ。」
「え…」
眩しさにも慣れてきた頃目の前でそう声をかけてきたのは大和田くんだった。なんでここにいるのだろうか、と内心びくびくしながらも冷静になれと自分に言い聞かせた。
「大和田くんどうしてここに?」
「…お前…時計見やがれ…」
ため息と共に大和田くんはそう言った。スマホを鞄から出して時刻を見るとこれから4限が始まりそうというところ。
「わ、私こんなに寝てたんだ…これ以上サボったら大変なことになりそうだし行かなきゃね」
大和田くん起こしてくれてありがとう、と伝えて私は早々に屋上を出ようとした。
――ダンッ。
開けようとしたドアを後ろから押さえられた。私の背後からのびたその手はどう考えてもさっきまで話していた大和田くんで。大和田くんとドアに板挟みにされている状況にドキドキしながらも、どうしてこうなったとこの状況に追い付いてくれない頭で必死に考えた。
「あ、あの大和田くんなんか、怒ってる?」
ちっと舌打ちが聞こえたかと思えば私はガシッと肩を掴まれて強引に大和田くんと向き合わされた。
「…お前はこんなもんで俺に告白すんのか、あぁ?」
そう言った彼が手に持っていたのは間違いなく私が書いた手紙。冷や汗が流れたのがわかった。
「なんで私って…」
正直、絶対にバレないって思っていた。だってそんなの、名前も書いてないのに。
「俺をなめてんのかよ、怜」
なんでそんなこと言うの。フラれるってわかってても嬉しくなっちゃうじゃないか、期待しちゃうじゃないか。
大和田くんがなにか言おうと口を開いた。聞きたくない、ただ下を向いて唇を噛みしめ涙を堪えた。
「俺だってなぁ、お前が好きなんだよくそがぁ」
「…えっ?」
想像してたのと真逆の言葉が聞こえて咄嗟に顔をあげ、大和田くんを見た。心なしか顔が赤くて険しい表情。…もしかして、照れて、る?
「う、嘘だぁ…」
衝撃的すぎて思わず漏れたその声はどうやら大和田くんの耳にも届いたようだ。
「嘘じゃねぇって言ってんだろうが!」
大和田くんはそう怒鳴る。だけどその顔はさっきよりも真っ赤だ。
「へへ、嘘じゃないみたいだね、」
嬉しくて涙が出た。不細工な面だな、なんて言って大和田くんが涙を拭ってくれるものだから余計に嬉しくってどうやら4限目もサボらなくちゃいけないようです。
20131019
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