休日の午前。私は石丸くんに勉強を教わっていた。

ノートに並んだ数式は気持ち悪いぐらいにびっしりと書かれていて。流石に飽き飽きしている私の目の前でただ黙々とノートに向かって手を動かす石丸くんは未だ疲れの色を見せていない。

「石丸くーん…休憩しようよー…つかれたー」


「いや、あと30分で昼食ではないか。あと30分集中して勉強しようじゃないかね。」

ぶっ通しで朝から3時間ほど勉強しているというのにまだ続けるという石丸くんは鬼畜なんてもんじゃない。時折解らないところを教えてくれてるのは有り難いと感謝しているがそれとこれとは別だ。

「えーやだーもうやめようよ、石丸くん。昼食まで休憩しよ。」

「しかしだな、まだ復習までしか終わってないのだぞ、葉山くん。」

「えー予習は午後からじゃ駄目なのー」

「そう言ってはいつも葉山くんは朝比奈くん達と遊びに行ってしまうではないか。」

私だって図星を突かれればぐうの音もでない。石丸くんの言った通り毎回午後にやると言っておきながら遊びに行くのだ。そして帰ったら石丸くんに説教を食らう、それがいつものパターン。

「じゃあご褒美くれるなら午後からも頑張るよ。」

勉強が好きでない私がここまで頑張って勉強をしているのだから少しぐらいご褒美をくれたら俄然やる気が出ると思うのだ。石丸くんがくれるとは到底思えないがここは一か八か望みをかけた。

「ご褒美?」

「いえす。ご褒美。」

「…葉山くんは何がほしいんだ?」

え。

それは意外な返答だった。石丸くんなら「ご褒美もなにもそれが当たり前ではないか」とでも言うかと予想していたのに。言ってみた甲斐があったというものだ。

「んー。じゃあこれ。」

私はそっと石丸くんに顔を近づけた。

「え、あ、葉山くん?!」

「…んっ」

石丸くんを黙らせるように自分の唇を石丸くんのそれに一瞬だけ重ねてすぐ離れた。

あれ、静かだな、と顔をあげてみると顔を真っ赤にして固まる石丸くんがいた。
そんな石丸くんを見て私は午後からも頑張ろうと笑った。


20130903




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